阪急電車
午過ぎの電車に乗る。大阪に住む友人に会いにいくのである。
窓を背にして横一並びの座席に腰掛けると、電車がのろのろと動きだした。慣性に負けて後方に首が置いて行かれるのに身体が鈍く揺れる。冬の終わりがはじまったような温い陽気で、日の温もりを背に受けながら、正面の窓に映った自分の姿を見るともなく見ていた。規則的に尻に届く電車の振動に合わせて、思ったより弱々しくみえる細首を支点にして、頭部がゆらゆらと揺れている。同じ動きを何度も繰り返す影をぼんやりと眺めていると、どうやら、自分の感覚よりも僅かばかり遅れて動いているのにふと気づいた。はたと頭を電車に負けないように止めてみた。が、影は止まらずにゆらゆらと顫え続けている。このまま影が自分勝手に動き続けていたら、わたしは彼に従いていくことになるのだろうか。窓の外が輪郭の曖昧な午下りの白を際立たせて、影の顔は漠として判然としなかったのが、幸いだった。まもなく淡路に到着するというアナウンスの声が無機質に鳴った。このまま電車が大阪駅の中に入ってしまって、向う窓が影の顔をついに映し出すのを、わたしは絶対に避けねばならないと思った。膝上に置いたリュックを両手で挟んで額を力なくぶつけた。今この瞬間も、あの影はわたしと全く同じ輪郭の目でもって、粘っこいのにまるで焦点の合わない視線が俯いた頭に鈍く広がっていくのを感じた。
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