脇道

ある日、脇道を見つけた。そこに脇道があれば、ふらりと吸い込まれて行ってしまうのは、昔からの習性だった。枯葉が斑らに落ちた舗装路で、山を削ってつくられているから、杉の樹々が崖下から僕を越えて空にまで伸びた身体を幾つも並べて、重く軋ませて鳴いている。呻きに近い、生きもの然とした鳴き声だった。低く顫えた呻きは波になって一つに繋がり、僕の視界に映る全てが、うねりを上げて襲いかかってくるのを想像した。下手な笑いが掠れた息と共に漏れた。僕は心が踊ったように突然走り出したり、茫と顔前に飛び出した緑葉をじいと眺めたり、ただ足元を見つめて歩いたり、止まったりした。一体どこへ向かっているのだろう?そもそも理由が必要になったのは、いつからだったろうか。

 そんな風にくねくねと折連なった道を進んでいると、頭上から葉の擦れる空気に紛れて車の通り過ぎる音が聞こえた。僕が辿ってきた脇道は、ごく最近作られたであろう、新しい舗装路に繋がっていた。地面には僅かのひび割れもなく、側面には山崩れを防ぐためのフェンスも張り巡らせてあって、まだ新しいコンクリートの白い壁が春の陽光を受けて膨張している。やはりあの脇道は捨てられたのだと、今更ながら、僕は思った。山中特有の強く吹き抜ける風が、冬を越えてもなお枝に張り付いていた枯葉を攫った。彼は眼前を舞って、中空に消えた。 

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