眠れない或る夜

さて、眠れない或る夜のこと。どこからかやってくる焦りに急かされないように、身を底に沈めようと息を吐いた。目を閉じていても意識ははっきりとしていて、窓の外の雑音や眉間の微かな強張りも拾い上げて、皮膚を撫ぜるような睡気を目蓋に乗せながら、いよいよ冴えていくのが分かった。


表には出してはいけない膿がある。膿は夜になると蠢く。だから彼らは小説を書くのだろう。こっそりと、社会の波に忍ばせて、気付かれぬように、気づいてほしいことも、気づかれぬように書く。三月の北斗七星を見上げる。七つの折れ曲がりながら並んだ上から四番目の星は、他の六つの星と比べて弱々しい光で、木々に囲まれた公園の中とはいえ、目を凝らさなければ殆ど見えないほどだった。昔の偉人は、ともすれば消え去ってしまいそうな彼を見つけるために、北斗七星をかたどったのだ。社会に疎まれ、ともすれば消されるであろう粘っこい膿を、強い光で隠しながら、そっと供えて置いておける場所を彼らは小説に見出した。痞えを主人公に詰め込むことで、はじめて彼らは自身を確認できた。そして惨たらしく抗いながら、ずるずると社会に飲まれていくのである。

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