しばらく

女の子は、かなり履き古したように見える、全体がくすんだピンク色の、雨で濡れてくたっとした運動靴で、地面を静かに蹴りつけながらこちらを見ていた。一重で切れ長の整った瞳は、緊張と苛立ちと不安の入り混じった光を帯びていた。彼女の前に置かれた長机には、レジンでできた手作りのキーホルダーが三個、慎ましく並べられていた。隣には彼女と同じ歳くらいの髪を二つに括った眼鏡からキョロキョロと辺りを見回している女の子がいて、「駄菓子売ってますう、いかがですかあ」などと自然に声を上げて、お客を呼び込んでいる様子だった。「一個三百円です、いかがですか」隣の女の子に続けて彼女は喉を顫わせる。彼女の細々と切れかかった、頼むような声が、降り続ける雨の音の中で僕の耳にやけに酷く残った。僕は、寒そうに右脚を震わせる姿を、なんだか直視できずに、彼女から目を逸らしながら僅かな苦笑を漏らしていたのに気づいて、酷く失望した。花柄や犬の肉球がプリントされたレジンのキーホルダーをチラリと見た。この子から誰か買っていっただろうか。しばらく彼女のそばをうろうろしていたけれど、周りにいたお客が離れるのに合わせて店を後にした。薄く張り付くような後暗さを感じたまま、帰路についた。しばらくは、忘れられないだろうなぁ、少なくとも今日の夜は、彼女の顔を思って耽るのだろうなあ。でも、それはきっかりしばらくの間だけ。しばらくの境界を越えたら最後、また何事もなかったように過ごすのだろうなぁ。彼女は今日の夜を楽しく過ごせるだろうか。家族はどんなだろうか。友達は、学校は、どんなだろうか。とんでもないことをしてしまったのではないかと鳩尾を締め付ける虫の湧き出る一方で、彼女は今日のことなど気にもせずにきっと生きていくだろう、とも思ったりする。今となってはどうにもならない、仕様のない話ではあるのだけれど。

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