第七話
この話をするのは、初めてだ。
両親や警察にはどうしても説明せざるを得なかったが、必要最低限に留めた。
その上、晨が心に負った傷は奥深くまで隠してしまったから、両親ですら知らない。
それから、晨はあの日の出来事を含め、紘一との関係や二人で過ごした時間について、何度も詰まりながら、真白に話して聞かせた。
「晨にとって、紘一さんは大切な人だったんだね」
話し終えると、真白はそう呟いた。独り言だったのかもしれない。
「そう。自分よりも大切な人だった。だから、俺が死ねばよかったと思うし、俺が殺したんだと思ってる。本当は生きることから逃げたい。それでも、俺は紘一への贖罪を抱えて生きていくことが、何よりも罰だと思ってる」
言わなくてもいいことまで話してしまっている気がする。
それでも、もう真白に隠しておきたくなかった。
真白が抱えているものはわからない。
これまでの様子を考えると、晨の問題よりも重たい問題だと予想している。
真白は決して弱い人間じゃない。
大きな傷を抱えながら、必死に生きてきたはずだ。
『殺してほしい』と『自死』は似ているようで、違う。
真白は生きていく理由を探している。許される時を待っている。
『殺してほしい』のは『過去に囚われている自分』であって、『心の傷を癒してくれる』人を待っているのかもしれない。
そんなすごい存在に自分がなれるとは思っていないけれど、ささやかな助けになれたら嬉しい。
そう思っている時点で、真白が大切な人になっていると言える。
これはもう気付けない振りなどできない、紛れもない事実だ。
「…‥そっか。生きていくことが、罰。そういう考えもあるんだ」
「それが良いというわけじゃないけどね。この思考がマイナスなものであっても、生きる理由であることは変わらない。どんな理由であれ、生きていく。それだけで充分じゃないかな」
「晨の言いたいことはわかった。私がすぐにそう思えるかはわからないけど……」
「いいんじゃないかな。これまで囚われてきた考えを変えるなんて、簡単じゃないよ。ゆっくり変わっていけばいいと思う。大事なのは、真白が変わりたいと思えることだと思う」
「うん、そうかも」
隣に座っている真白の横顔は、これまでの中で一番すっきりしているように見える。
真っ直ぐ前を見始めた。そんな気がする。
そう思っていると、真白が晨の方へ顔を向け、ふっと笑った。
優しくて、温かみのある微笑に心臓が高鳴る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます