第五話

 晨は真白をそっと寝かせ、自分の足に頭を載せてやった。


 小柄で細身の晨に、ベッドまで運ぶ力も、ソファーに寝かせてあげる力もない。


 もともと好きではない自分の非力さが、より一層嫌いになった。


 涙に濡れた真白は今、力尽きたように横になっている。


 青白くなった顔色に、泣いたせいで赤くなった目元が際立っているのを見ていると、無理やり聞き出そうとした自分を責めずにはいられない。


「真白……ごめん。俺が、軽率だった」


 真白の傷には触れず、『殺してほしい』と言われたら、受け流せばいい。


 『生きていてはいけない』と言われたら、そんなことはないと諭せばいい。


 これまで通り、そうしていけばいいかもしれない。


 それも、一つの関わり方だ。


 晨が、傷には触れられたくないのと同じなのだろうから。


 二人とも過去から逃げて、生きることからも逃げて、この世に別れを告げる。


 それも、誰にも止めることのできない、一つの選択かもしれない。


 決して褒められる結末ではないということはわかっているけれど、そうしなくてはいけない理由を抱えているのも事実。


 だけど、本当にそれでいいのだろうか。


 真白の過去はわからないままだけど、晨がこれまで生きてきたのは、紘一への贖罪があったから。


 自分のせいで死なせてしまった唯一の親友。自分と関わらなければ、紘一が死ぬことはなかった。


 それでも、紘一は最期の瞬間も、晨の手を心配してくれた。


 イラストが描けるかどうか、自分の状態なんてお構いなしのように、気遣ってくれた。


 そんな親友の気持ちをなかったことにして、自分は逃げるように生きることをやめてしまう。


 どうしても、晨にはそれを選ぶことができない。


 それが、晨の生きる意味。


 そして、絵を描き続けている理由だ。

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