第六話

 遠くの方で、雨音が鳴っている。


 それを遮るように、何かを叩くような音と呻き声が響く。


 身体中に痛みを感じながら、ゆっくりと目を開けると、少し離れたところには、唯一の親友――紘一こういちが羽交い絞めにされた姿で、立たされていた。


 その前には薄ら笑い浮かべる男が一人。


 晨を押さえつけている男が一人。


 計三人の男が、晨と紘一を力で制圧している。


「や、やめて」


「やっと目が覚めたのかよ。いいか、よく見ておけよ」


「ダメ! 僕になら、何をしてもいいから。だから、紘一だけは……」


 必死に訴えかけようとしても、すでにひどく暴行を受けた身体には力が入らず、頭を押えつけている手を振り払うこともできない。


 薄暗い世界で、痛みと冷たさが身体を苦しめ、目の前に広がる光景が精神的な苦痛を強いてくる。


「可愛いってだけで、女子から人気があるなんて不公平だよな?」


「そんなんじゃ」


「『僕』とか大人しい性格も、可愛いアピールなんだろ? どうせなら、ずっと人と関わらずにいればよかったじゃないか。お前が言わなきゃ、誰にもバレなかったんだよ」


 頭を押さえていた手が、晨の柔らかい髪を掴み、強引に引き上げる。


 頭皮に痛みを感じ、目に涙が滲んだ。


「俺が勝手に聞き出したんだ! 晨は隠そうとしてた!」


 紘一が叫び、後ろにいる男を振りほどこうと暴れる。


「でも、結果的に、俺たちがこいつをいじめてるって、先生にバレたんだよ。そのせいで、親の呼び出しを食らって、面倒な目に合ったんだ。全部、お前らのせいだろ?」


 晨の頭が地面に叩きつけられる。


 髪がぶちぶちと千切れ、目の前で閃光が走ったように視界が白くなる。


 意識が遠のくのを、晨は必死に手繰り寄せた。


「ぼ、僕は」


「しかも、俺の女が、女みたいなお前のことを好きになったんだってよ! 笑わせるよな? こんな陰気な奴のどこがいいんだか」


 突然、腹部を蹴られ、呼吸が止まる。


 続けざまに加えられる暴力に、抵抗する気力も体力もなくなっていた。


「やめろよ! そんなの全部、逆恨みなだけだろ!」


 紘一の大きな声に反応するように、涙が溢れてくる。


 どうして、こんなことになってしまったのだろうか。


 一体、どこで間違ってしまったのだろう。


 いじめにあっていることを、紘一に話したこと?


 友達ができて、学校が少しだけ楽しくなったこと?


 それとも、紘一と友達になったこと?


「紘一は偉いな。こいつには友達が一人もいないから、同情して一緒にいてやったんだろ?」


「違う!」


「だけど、ちょっとやりすぎたな。お前のせいで、こいつが目立つようになっちゃったもんな」


「別に目立つことなんて――」


 紘一の言葉を遮るように、男の一人が顔を殴りつける。


 紘一の口から血が飛び散った。


「モテるようになって、嬉しいだろ! なぁ、晨ちゃん?」


「僕……お、俺は!」


「お? 晨ちゃん、弱いなりに、紘一を守るつもりか?」


 男たちの馬鹿にするような笑い声が、脳に不快な信号を送る。


 男たちに対しても、この状況に対しても、怒りと恐怖が入り乱れながら押し寄せる。


 何より気持ち悪い自分の存在に吐き気がした。


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