_3.旅支度__

『そういえば、お兄さんの名前なんて言うの?』


お兄さんの家に来て二ヶ月。

今更感もあるけど、お兄さんの名前が気になった。


「木枯緋彩。今更だね」

『だってお兄さんはお兄さんだし、名前知らなくても意思疎通取れてたんだもん』

「確かに」


ガララッと窓を開け、洗濯物を取り込み始めるお兄さん。

手伝おうかなと吊るされている洗濯物に手を伸ばすが、ハンガーまで届きそうで届かない。

あとちょっと……!とぴょんぴょんしてると、お兄さんが全て取ってしまった。

手伝いたかったのに……。


「畳むの手伝ってくれる?」

『うん!』

ほら、今だって意思疎通できてた。多分。

洗濯物を半分くらい受け取った私は、


「君は?」

『?』

「君の名前」

『んー、ない』

正確に言うと、あったかもしれないけど忘れた。

『お兄さんが付けて!』

「無茶振りだ……」

苦い顔をするお兄さん。

それでも私はお兄さんに名前を付けてほしいから引く気はない。

「露草……露……栗花落はなんか違うな……」

考えてもらっている間に洗濯物を畳んでいく。

単純な作業だから、何も考えずにできるの楽でいいね。

なんて思ってたらあっという間に全部畳み終わった。

「じゃあ、露に羽って書いて露羽はどう?」

『露羽……』

「嫌だった?」

『ううん、ありがとう!』

お兄さんから貰った名前、大切にしよう。


「あ、畳んだのそこ置いといていいよ」

『?うん』

棚にしまおうと思って畳んだ服を持ち上げたら止められた。

いつもだったらすぐしまうのに、何かあるのかな。

「えーっと、キャリーケースの余りあったっけ」

ガサゴソとクローゼットの中をあさり始める。

キャリーケースってお兄さんが服とか機材とかいろいろ詰めてたやつのことかな。


「お、あったあった」

クローゼットの奥底から引っ張り出された白いキャリーケース。

埃を被っててだいぶ放置されてたことがわかるのに、雪みたいに白い。

「これあげる」

『ありがとう』

よく見ると雪の結晶の模様が下の方にあった。


「明日からいろんな所行くから準備しといてね、露羽」

『!』

いろんな所行くってことは、新しいものが見られるかもしれないってこと!?

『わかった!』

渡されたキャリーケースと畳んだ自分の服を持って、自分の部屋に飛び込んだ。


何入れればいいんだろう。

確かお兄さんは、あのホテルでは衣類と日用品、貴重品、バスグッズ、機材系を入れてたはず。

必要なのは日用品とバスグッズあたり?

とりあえず必要そうな物全部もってこよう。


お兄さんに確認を取りながらいろんな部屋を行ったり来たり。

タオルとか歯ブラシとか、まだ使う予定がある物以外は全部揃った。

服は全部使いそうだから着ていくのと持っていくので分けて、あとはうまいことケースの中に全部詰め込むだけ。




……だったんだけど、それがそう簡単にはいかなかった。

どうやっても中身がぐちゃあってなるし、うまくいったと思ったら閉まらないし。

最終的には、苦戦してる私を見かねたお兄さんが手伝ってくれてなんとかなった。

よく使うものは取り出しやすい場所に入れる、服はなるべく大きく薄くなるように畳むとか、いろいろコツも教えてくれた。

次があったら自分でちゃんとやろう。

いや、別に何も無くても……やめとこう。


入れ忘れなし。着ていく服も準備おーけー。

前に買ってもらった小さめのバッグもそこにある。

あとは早く寝るだけ。


やることも終わったし、お兄さんのところに戻って写真見せてもらお。



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