_2.旅の始まり……?__
「いや……え!?」
明らかに動揺を隠せてない。
そりゃそうか。
会ったばかりの女の子に『連れてって』って言われて動揺しない方が難しいか。
「うーん……」
あ、悩んでくれるんだ。
てっきり断られるかと思ってた。
「僕は良いけど、君の親御さんは?」
『だから!私はもう大人!親もいない!』
またこれだ。
容姿のせいで子供扱いされる。
性格はまぁ……認めざるを得ないけどさ。
「本当?」
『ほんと!』
疑いの目を向けられる。
明らかに信じてくれてない。
「……わかった。ついてきていいよ」
『やった〜!』
ぴょんぴょんと跳ねながらお兄さんについていく。
「お願いだから、着くまでは絶対にコート脱がないでね?」
『なんで?』
「虐待疑われても面倒だから」
『あー……』
確かにそれは面倒くさい。
警察って何言ってもなかなか信じてくれないもんね。
「歯切れ悪い返事やめて!?怖いから!」
『さすがにしないよ!』
そんな感じで久々の会話を楽しんでたら、さっきの砂浜から見えてたホテルに着いた。
し、シー……?なんとかホテル。英語読めない。
お兄さんの部屋は407号室らしい。
『おー……!』
統一感のある家具と色味を見て、思わず感嘆の声が漏れる。
他の人からしたら普通の事かもしれないけど、見たことなかったから新鮮。
「お風呂入ったら?その感じだと暫く入ってないでしょ」
『はーい』
扉を開けて探し回って見つけた、これまた綺麗なお風呂場。
一ヶ月くらい前に、親切なおじいちゃんとおばあちゃんが一日だけ家に泊めてくれたことがあったから、使い方はわかる……はず。
『お兄さーん!どれがどれー?』
問題はボディソープとかシャンプーとか。
存在自体は知ってるけど、パッケージが似たりよったりで全然わかんない。
「あんま大きい声出すな」
『いてっ』
軽く頭を小突かれる。
「これがソープでこれがシャンプー。で、そっちはリンス系」
『ありがと!』
説明してもらってもパッケージの違いはよくわからなかった。
ささっと洗って早く出よう。
* * *
お風呂あがってから思い出しても遅いのはわかってるけど……私、あの服しか持ってないや。
『お兄さーん!!』
「だから静かに……!?待って待って待って、一旦風呂場戻って!」
タオルだけでお兄さんのところに行くと、すっごい慌ててお風呂場に帰された。
……お兄さんの慌てよう、ちょっと面白かったな。
「心臓に悪いよ……」
『お兄さん。私、服あれしかない』
今度はお風呂場から顔だけを出してお兄さんと会話する。
「あ、そうか……どうしよう」
二人して悩んだ末、お兄さんの家に着くまでは今までの服で過ごすことになった。
お兄さんの服を着てみたりもしたけど、ぶかぶかで動くのが大変だった。
「おやすみ。君も早く寝なよ」
『うん』
寝なくても平気なんだよなぁ。
なんてぼんやり考えながら返事だけして、窓辺に座って外を眺める。
ここからだと、いつもはあんなに近かった海辺が遠く感じる。
たった数百メートル離れただけなのに。
キラキラしてた砂浜も、少し暗く見える。
でも、海だけはいつもよりも大きく感じるし、すごく輝いてる。
明日になったらもっと離れるんだよね。
だったら今のうちに、ここの景色を目に焼き付けておかないと……。
また……戻ってこられるのかな……。
* * *
次の日。
新幹線と電車とバスで、お兄さんの家まできた。
お兄さんが荷物を置いたあと直ぐに、「出かけるよ」って言うから景色が綺麗なところを期待したけど、私の服とか靴を買いに行くらしい。
お店に着くまではあんまり乗り気じゃなかったんだけど、可愛かったりかっこよかったりする服を見てテンションが上がった。
『どう?似合ってる?』
今はいろんな服を試着してる。
ワンピースだったりパーカーだったり、いろんな種類の服。
「似合ってるよ」
可愛いのもかっこいいのも。どの服も着るのが楽しくて、時間を忘れちゃいそう。
どの組み合わせにしたら一番良いかを考えるのも楽しい。
「全部欲しいのはわかるけど何個かに絞ってね?」
『はーい』
やっぱりワンピースは外せないよね。ズボンとそれに合わせる服も。
だから、この白メインで勿忘草色のサスペンダーみたいになってるワンピースと、ズボンと、それに合わせるシアンのラインが入った大きめの黒いパーカーは確定。
あとは……
『お兄さんに選んでほしい!』
「僕に?」
『うん!』
せっかくなら選んでもらいたい。
「じゃあ選んだやつ貸して?合わせて買ってくるから」
『はい!』
選んだ服を渡して、試着室を出る。
私は、お兄さんが買ってきてくれてる間に他の服を戻して、お店の外で待ってた。
「おまたせ」
『どんな服にしたの?』
「帰ってからのお楽しみ。ほら、次は髪切りに行くよ」
『え〜』
この長い髪気に入ってるのに……
「切るって言っても整えるだけだし、そこまで短くならないと思うよ」
『ほんと!?』
なら心配しなくても大丈夫か。
* * *
お兄さんの言ってた通り、そこまで短くならなかった。
身長と同じくらいの長さだったのが、膝と足首の間くらいになっただけ。
ボサボサしてたのも直って、さらさらになった。
でも、垂れ下がった猫耳みたいなクセが付いてるところは直らなかった。
クセでも気に入ってるからいいんだけどね。
そのまま真っ直ぐ家に帰って、お兄さんに選んでもらった服を早速着てみる。
一つは裾に花柄の刺繍が入った、露草色メインのセーラー服っぽいシンプルなワンピース。
もう一つはヨモギ色のセーターとベージュ色のニット帽。
どっちも私の好みの色。
合わせ方を工夫したら、いろんな良い組み合わせができそうでワクワクする。
明日からの楽しみが増えたな
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