第60話 指輪




 家賃の安さがきっかけでこのアパートを知り、俺は玲と出会った。


 最初のうちは彼女の未練を晴らし、悠々自適な一人暮らしを営むつもりだったのだけど、気付けば同棲のような生活が当たり前になっていた。



 なぜ俺はこんなにもはっきりと幽霊が見えてしまうのか。



 何度も死にかけたというのが原因なんだろうけど、この人と違う体質を恨んだこともあった。こんな『特別』、望んでいなかったと。『普通』が良かったと。


 でも、こうやって霊を――玲を見ることができるのだから、話せることができるのだから、今では本当によかったと思える。本当の意味で『特別』になった気がする。


“薫くんも随分と料理が上達しましたね~、これも私の指導のたまものですかね!”


「ツッコみたくなるような言い方で正解を言うなよ……」


 料理は玲に教えてもらってからできるようになったんだから、疑いようもなく彼女の言う通りである。そしてお供えすれば彼女に食べてもらえるというのだから、モチベーションもばっちりだ。


 夕食を食べながらそんな会話をしていると、隣に座る玲が俺の肩に頭を乗せてくる。


“んふふ~”


 じゃれつくように、そして楽し気に笑う玲を見て、ここに引っ越してきたばかりのことを思い出した。


 あの時彼女は、俺に対して『お仕事お疲れ様、あなた』みたいなことを言っていた。それを聞きながら俺は羞恥心に悶えたものだけど、現実味を帯びて来ると、感じ方もまた変わってくる。


 俺が仕事を始めて、家に帰宅したらそんなことを言ってくれる玲がいると思うと、仕事も頑張れそうだなぁと思うのだ。仕事らしい仕事をしたことがないから、どれほどの辛さになるのかは知らないけど、きっと大丈夫だと思う。


「これからもよろしくな、玲」


“ど、どうしたんですか急に?”


「いや、なんとなく」


“そ、そうですか――こちらこそ末永くよろしく願いします”


 末永く――っていうのは、死んだ後もってことでいいのだろうか。

 俺は、そうであってほしいと思うなぁ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



“どうですか! 似合ってますかね!?”


 高校二年の冬――俺はクリスマスにおそろいの二つの指輪を購入した。ペアリングというやつだ。


 父の仕送りで買うは違う気がしたので、夏休みに短期で稼いだバイト代をクリスマスプレゼント用にため込んでおいたのだ。百円ショップのリニューアルに伴う商品整理が主な仕事だったのだけど、思ったよりも体力を使う仕事だった。


 まぁそれはもう終わったことだからいいとして。


「その指にはめるのは違うんじゃないか……?」


 彼女は俺がお供えして部屋に戻ってくると、すでに指輪を左手の薬指にはめていた。あの指って、婚約指輪とか結婚指輪をはめるところだよな? ペアリングで使っちゃっていいものなのだろうか?


 俺は無難に右手の薬指とかにはめるつもりだったんだけど……どうしたもんか。

 苦笑する俺を前に、玲は腰に手を当ててドヤ顔を決める。


“これはもうプロポーズと言っても過言ではありませんね! 指輪もらっちゃいましたから! まぁ、薫くんが私からこの指輪を取り返せたらキャンセルでもいいですけどね!”


「俺がもう触れなくなってるの知ってて言ってるだろそれ……」


“ということはキャンセル不可ってことですよね! コマッチャイマスネー”


 棒読みが過ぎる。どんだけ俺と結婚したいんだよお前は。いや俺も気持ちは一緒だけど、もっとちゃんとしたものを渡してプロポーズをするつもりだったんだが。


「困ることはないけど……そんなのでいいの?」


“そんなのとはなんですか! この婚約指輪、すごく可愛くて好きです! 一生大事にします!”


 だから玲の一生は終わってるんだって。


 というかもう玲の中で俺のプレゼントが婚約指輪ってことになってるし――俺の分もあるから、結婚指輪なのか? わからんな。


「まったく……玲はそんなに俺と結婚したかったのか?」


 からかい交じりにそう聞いてみる。


 どうせ『薫くんがどうしても結婚したそうだったので』みたいに逃げるんだろうな……顔を赤くして、照れ隠しをしながら。そんな姿が容易に想像できる。


 そう思ったのだけど、


“はい! 私は薫くんのお嫁さんになりたいんです!”


 玲は幸せそうに、はっきりと大きな声で言ってのけた。


 これを『未練だったから』――なんて理由にするのはあまりにもナンセンスだろう。彼女はきっと、いや絶対に、未練なんて関係なしに、俺のことを好いてくれているんだ。


 ――そう、俺が彼女を想うように。



~完~




~~~作者あとがき~~~


これにて『美少女JK(享年16歳)と同じ屋根の下』、閉幕でございます~。

最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!


ここまでお読みになった方はお気づきかもしれませんが、今回の物語はプロット(小説の設計図みたいなもの)を作らずに、玲ちゃんの可愛さでゴリ押ししよう!ってな感じで書き始めた物語でございます。


あまり作らないタイプの形だったので、私としても色々勉強になりました。

感想もたくさんいただき、本当に嬉しかったです!


次の作品はさらに面白くできるよう頑張りますので、また私の作品を見かけましたらどうぞよろしくお願いいたします(o*。_。)oペコッ


改めて、お読みいただきありがとうございました!



【作者からのお願い】

「面白かった!」と思っていただけましたら、

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美少女JK(享年16歳)と同じ屋根の下~俺だけが見えて触れる女子高生はうるさ可愛い~ 心音ゆるり @cocone_yururi

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