第54話 プレゼントの反応




 一緒にお風呂。背中を流す。大量のキス。

 玲は俺の言葉を信じ切れず、そんな大層なチップを積んだ。


 はたしてこの賭けに勝ったとして、彼女が得られるものとはなんなんだろう……。なにか報酬があったとしても代償大きすぎないか? いや、俺たちが付き合っているということを前提に考えれば、リスクは軽減されているだろうけど……。


「ほら、どうぞ――って、そうじゃないか」


 なおも怪訝な表情を浮かべている玲に手渡そう――として無理だと気付いた。そりゃそうだ。幽霊だもん。俺も少し冷静じゃなくなってしまっているらしい。


“そうやって『あー、怜には中身が確認できないからこれは渡せないなー!』とか言うんでしょ! ひどいっ!”


「そんなに性格悪くねぇよ――どうしよっか? 玲が袋開けたい? それとも、袋に入ったままお供えしたほうがいいか?」


 どちらにせよ、玲に渡すことになれば数は倍になる。お供えして玲に霊体のぬいぐるみを渡せるし、ぬいぐるみの実態が消えるわけでもないし。


 お供えしたものに関していうと、俺は幽霊と同じように触ることができないから、本当に玲だけのものとなる。まぁ玲にお供えしたものだから、当然といえば当然だが。


“……ほ、本当に薫くんからのプレゼントなんですか?”


「そうだぞ」


“……た、たわしとかでしょうか?”


 それはたわしに失礼じゃないだろうか。


「玲にたわしプレゼントしてどうするんだよ……逆ならまだわかるが」


 掃除とかできるし。


 ……いや待てよ。玲にそんな実用的なものをもらっても、使いたくないな。飾りたい。


 幸い、玲は物を購入することができない身の上だから、その心配をする必要はなさそうだ。プレゼントも、こういうことを考えると選ぶのって難しいんだな。


 今回は玲が欲しがっていたものもわかっていたし、ぬいぐるみという無難なものだったからよかったけど……今度からはしっかり悩むとしよう。


“じゃ、じゃあ薫くんがどうしても本物だって言い張るなら、そのままお供えしてきてください! じ、自分で開けたいので!”


「了解」


 というわけで、彼女の母親である栞さんに連絡を取る。いつでも来て大丈夫とのことだったので、さっそく荷物を届けに行ってきた。あとで回収させてもらおう。


 玲もぬいぐるみが二つあったほうが嬉しいだろうし。


 家に戻ってくると、玲はすでにピンク色の袋を大事そうに抱えて部屋で待っていた。仏壇の前では顔を見せなかったのに……がっつく様子をあまり見せたくなかったのかもしれない。


「俺が帰るのを待っててくれたんだな」


“だ、だって勝手に開けたら怒られるかと思って――”


 子供かよ! いや子供だな、いや、子供か? 死んだときの年齢で言えば十六歳だけど、精神年齢的には十九歳だしなぁ。微妙なところである。


 まぁそれはいいとして。


「俺も玲がどんな反応をするか見たかったから、ありがたいよ。喜んでくれると嬉しいんだがな」


“か、薫くんからのプレゼントなら嬉しいに決まってるじゃないですか! たわしでも飾りますよ!”


 それは使えよ――と言おうとしたけれど、つい先ほど俺も『飾りたい』と考えていたから人のこと言えないな。もしかして似た者同士だったのか?


 というか玲。もうすっかり先の発言は忘れてるんだろうなぁ。


 ちょっとウキウキし始めているけれど、お風呂のこととかはもう頭から消え去ってしまっているのだろう。


 そんな暢気な彼女は“あ、開けますね!”と左手で大事そうに袋を抱えて、右手でリボンをほどく。するりとリボンは外れて、袋の入り口がゆるんだ。


「どうかな」


 まだ中身を覗いていないのに、玲の反応が気になったので先走って声を掛けてしまう。しかし彼女は夢中になっているのか、俺の声には反応せずに袋の口を開いた。


“――こ、これって!? 本当ですか!?”


 中身を上から見た彼女は、勢いよく俺に目を向ける。そして、袋の中と俺を交互に素早く見た。


「実物があるんだから本当も嘘もないだろ」


“だ、だってこれ、マウスくんですよね!? ねこねこパニックの!?”


 そう言いながらも、彼女の手は袋の中へ。そして中身を取り出すと、ぬいぐるみを両手に持って上に掲げた。ちなみに袋はぷかぷかとその場に浮いている。消えるかと思ったけど、どうやら袋も含めてプレゼントと思っているようだ。


“うわぁ……可愛いっ! かっこいいっ! ほら見てください薫くん! マウスくんですよ! 昨日見た! あのマウスくん! 機関銃も持ってます!”


 実に楽しそうで、嬉しそうだ。ここまで喜んでくれるとは思っていなかったから、俺としてもすごく嬉しい。プレゼントって最高だな。


 玲はおもむろにマウス君を自分の顔の前に持ってきて、正面を俺に向けた状態でしゃべりだす。


“『これが最後のまたたびか……味わい深ぇな』――どうです!? 似てました!?”


 声真似……らしい。全然似てないけど、可愛いから良しとしよう。



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