第25話 激甘、開幕
俺が玲に告白してから数日が立ち、高校二年が始まった。
学校が始まるまでのわずかな期間の間に、俺は自らの意思を確固たるものだと示すため、彼女の家族たちに報告。大学生の友人たちには話していたから、それ以外の四人だ。
姉である灯さん、妹の優、そして母親の栞さんに、電話ではあったけれど、父親である徹さんにも『俺は玲を好きになりました。彼女に好きになってもらうよう、頑張ります』と報告させてもらった。
もちろん、俺のオトンとオカンにも、幽霊に恋をしたことを伝えた。生前の写真を如月さんにもらい、それを両親にそれぞれ送信。
これだけの人数に、一般的でない恋をすると宣言したのだ。
もちろん反対されることを念頭に入れていたし、それでも押し切る覚悟で気持ちを正直に話した。
「みんな拍子抜けするぐらいお祝いしてくれたなぁ」
“お、お祝いっておかしいですよ! だ、たってまだ私たちはその、あの、あぅ……”
「あぁそうだな。俺が玲に好きになってもらってから、それからお祝いだよな、普通さ」
“そ、そそそうですよ! 大体ですね! 市之瀬さんはこうして生きてらっしゃるんですから、普通の女の子と恋愛をしたほうがいいと私は――”
「いやだね。俺はお前が好きなんだ」
“あぅ……”
リビングで制服に着替え、朝食を食べながら玲と話す。
彼女は俺の向かいに座って、もじもじと落ち着きなく身体を動かしていた。
朝食の内容はさすがに朝から料理をする元気はないので、シリアルと牛乳だけだ。まぁこれも、玲に『バランスが悪いからこれとこれを混ぜてください!』と言われたものだけど。スマホで検索して、買うもの教えてくれた。
「俺が学校に行っている間、暇じゃないか?」
“んー、誰もいなくなるってことはあまりないですからね。ママがテレビを点けていることが多いので、それを一緒に見たりしてますよ”
灯さんは社会人だし、他は学生だからなぁ。
高校二年になってから、俺は八時前に優と一緒に家を出て、学校に向かっている。ちなみに、クラスは一緒だった。
一緒に学校に行っているせいで『市之瀬と御影は付き合っている』みたいな変な噂もたってしまったが、お互いにあまり気にしていない。面と向かって聞かれたら誤解は解くけど、勝手に勘違いするならしとけというスタンスだ。
嫉妬の目とかもあるけど、優の友人たちがわりとカバーしてくれているので、非常に助かっている。ありがたや。
「――ごちそうさまっと。じゃあ玲、なるべく早く帰ってくるから、待っててくれよ」
立ち上がり、シンクに空になったお皿を持って行きながら玲に言う。
彼女の話し相手ができるのは俺だけなのだ。そしてなにより、俺が彼女に早く会いたい。
“そ、そんな急がなくてもいいですって! それよりも、気を付けて帰ってきてほしいです……車とか”
「おう、気を付ける」
玲は交通事故で亡くなっているから、そりゃ気にしちゃうか。
これまでに俺が買い物に行った時も、俺が帰って来た時にほっとしたような表情を浮かべてたもんなぁ。
そんなことを考えながら、洗い物をして、戸締りを確認、通学バッグを持って、玄関へ向かう。そろそろ優と待ち合わせをしている時間だ。
あ、そういえば。
「お嫁さん志望ってことは、いってらっしゃいのキスとかしてくれるのか?」
“し、しませんよ! そ、それにはポイントが必要です! 私のほっぺちゅーはそんなに安くありませんから!”
「ははっ、じゃあポイント貯められるように頑張るとするかぁ」
何をすればポイントが貯まるのかまだはっきりわかってないんだよな……今は時間がないから、学校が終わったら聞いてみることにしよう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
うちのクラスよりも先に終礼を終えた生徒たちを追い抜きながら、早歩きで学校から帰宅。どうやら玲が日中にポイントについて考えてくれていたようで、取得条件や報酬を口頭で教えてくれた。それを俺は、ノートに書き留めていった。
めちゃくちゃ恥ずかしそうに話していたので、なんだかそっち方面の性癖に目覚めそうになってしまったが、堪えた。頑張ったよ、俺。
で、その内容はというと。
一ポイントでマッサージ。これは変化なし。しかしこれ以降が少し変わっていた。
以前は二ポイントでハグだったが、これは膝枕に変更。
三ポイントでほっぺにキスだったが、ここにはハグがやってきて、四ポイントでほっぺにキスになっていた。
それ以降は、五ポイントで添い寝。七ポイントで唇にキス。
十ポイントで、俺の言うことをなんでも聞いてくれるらしい。
なんと豪華な景品か。大盤振る舞いにもほどがあるだろ。思春期らしい妄想もたくさんした。そりゃもう鼻血がたれそうなほどに妄想しまくった。
しかしこれを聞いた瞬間に、俺は思ったよ。
これだけ報酬が良いのだから、きっとポイントを獲得することが非常に難しくなっているのだろう。それこそ、一か月で一ポイントとれるかどうか――それぐらいの難易度になっていると思ったのだ。
だがしかし、玲はやはりおバカだった。
玲が教えてくれた取得方法はさまざまだったのだけど、例えば『一緒に料理してくれたら一ポイント』、『家にいる間、触れるようにしてくれたら一ポイント』、『他の人と話せるよう、通訳してくれたら十分ごとに一ポイント』。そんなレベルだった。
もうね、取得が楽すぎるんだよ。そしておバカの最たるものとして、『リバーシで俺が一勝するごとに一ポイント』という、自分の実力の無さを自覚していないようなものがあった。
“うぅ、いったい私は何をされてしまうんでしょう……”
顔を真っ赤にしてうつむく玲は、テーブル越しに上目遣いでこちらをチラチラと見る。とてつもなく可愛い。いますぐにテーブルを飛び越えて抱きしめたい――だが、我慢だ。
「玲が嫌がることはしないって言っただろ――そりゃゆくゆくはキスとか添い寝とかしてほしいけどさ、何よりも俺はお前に好きになってもらいたいんだから。玲に嫌われるようなことは、したくないんだよ」
そんなことを言いながら、俺はパチパチとリバーシの石を裏返していく。玲はその光景を見ながら、悔しさと恥ずかしさが混じったようなうめき声をあげていた。
俺は夕食、お風呂以外の時間をすべてリバーシに費やし、一日で三十八ポイントを獲得したのだった。
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