第24話 告白



 玲の親友である如月さんと立花さんに、『なんとか玲に好きになってもらうように頑張りたいと思います』と宣言してしまった。


 その気持ちには後悔はないのだけど、玲が戻ってきてから俺も恥ずかしさがぶり返してきた。


 そして玲自身も、この部屋から出て行っている間に『お嫁さんになるには俺と結ばれるしかない』という状況を理解したのか、俺と目を合わせることはせず、終始顔を真っ赤にしており、平常心でないことは確定。


 というわけで、このまま大学生たちと会話を続行することは不可能である――そう判断し、俺は自分の部屋に戻ることにしたのだ。


 リビングのローソファに座り、気持ちを落ち着ける。


 玲は俺が部屋に戻ってきてから、だいたい五分後ぐらいに戻ってきた。どこかをうろちょろしていたのだろうが、いまだに顔は、赤色から変わっていない。


「なあ玲」


“ひゃ、ひゃいっ!? なななんでしょ!?”


 落ち着きなくリビングを漂っていた玲に声をかけると、動揺が丸わかりな返答をくださった。自分より平常心でない人を見ると、こっちは落ち着けるな。


 しかし嫌悪されるのではなく照れられているのなら、好きになってもらう可能性も、わりとあるかもしれない――そんなわけで、少し安心した。


 彼女は俺と視線を合わせていないが、俺の正面――テーブルを挟んだ向かい側に正座する形でとどまる。


「玲がさ、『お嫁さんが未練だなんて恥ずかしい』って思うのはわかる。そして、成仏するためには選択肢が限りなく少ない――まぁなんというか、はっきり言ってしまえば、正直俺ぐらいしか選択肢はないと思うんだ」


 だから、彼女はこんなに顔を真っ赤にして、動揺してしまっているのだろう。

 いきなり友達に『今日から婚約者な!』なんて言われたら、落ち着いてなどいられないはずだ。


“そ、そうですねぇ? そ、そうなんですかねぇ?”


 変な裏声で返答する玲。こういうところも、意識してしまっているからか、なおさら可愛く見えてしまう。


 視線をきょろきょろとさまよわせる玲に苦笑してから、俺は話を続けた。


「未練を知ったあとだから説得力はないと思うが、はっきり言っておこうと思う」


“な、なんですか? も、もしかして、このアパートを出て行くとか……そ、そうですよね、こんなお嫁さん願望のおバカがいるアパートで暮らすなんて――”


「俺はお前が好きだ。惚れている」


“ありえな――へぁ?”


 ド直球の告白をすると、彼女は素っ頓狂な返事をする。そして赤かった顔を、さらに濃い色へと変化させていった。


 なんか玲がごちゃごちゃ言っていたみたいだけど、自分の気持ちを伝えることに集中しすぎて聞こえなかったな。なんといっていたんだろう……? まあいいか。告白の続きといこう。


「玲の底抜けに明るい性格が好きだ。人を思いやる気持ちがあるところが好きだ。ちょっと抜けてるおバカなところも好きだ。正直に言うと、見た目もドストライクすぎてやばい。抱き着かれたりキスされたりして、本当にドキドキを抑えるのが大変だった」


“にゃ、にゃにを言ってるんです!?”


「そりゃ告白だよ、気持ちを伝えてんだよ。俺の顔色を見てわかるだろうが、俺だって恥ずかしいんだからな。これでも、人生初の告白なんだぞ」


“そ、そうですよね。これ、こ、告白なんですよね?”


 彼女は疑問を口にしながら、ふーふーと肩で息をしている。告白なんていままでたくさんされてきただろうに……緊張してくれるのは、なんか嬉しいな。


「そう、これは告白だ。まぁまだ付き合いが短いから、説得力はあまりないと思う。だけど、玲のことを好きな気持ちはたしかだ。十六年生きてきて、玲以上に誰かを好きになったことなんてない。それだけは断言できる」


“は、はい……”


「だからこれから、よろしく頼むぞ、玲」


 俺はそう言って、玲に向かって握手をするように右手を差し出した。


 彼女はぎょっとした目で俺の手を見て、そして目を見て、そろりそろりと俺の右手へと手を伸ばす。そしてゆっくりと、だけどしっかりと、俺の手を握ってくれた。


“あぅ、あぅ、……こちらこそ、その、よ、よろしくお願いします”


 うつむいた状態でそう言った玲は、俺の手を握る力を少しだけ強くした。

 良かった。断られたらどうしようかと思ったわ。これで前に進める。


「あぁ、ありがとな。時間はかかるかもしれないが、玲に俺のことを好きになってもらうよう頑張るからな。いずれは恋人になって、そして俺の『お嫁さん』になってほしいと思うけど――まぁとりあえず、これからも同居人としてよろしく頼むぞ」


“は、はいっ! はい? 頑張る? いずれ? ど、同居人?”


 玲は俺の手を握ったまま、ぽかんとした表情になった。豆鉄砲を食った鳩かよ。


「いやだからさ、俺は玲のことが好きだけど。お前は別にそうじゃないだろ? だからこれから、なんとかいいとこを見せて、お前にも惚れてもらおうってことだよ。まぁ好きでもないやつからのアプローチなんてうざいかもしれないが、そこは我慢してくれ。どうしても俺のことを好きになれなかったら、そんときゃそんときだ。また一緒に考えよう」


 恋愛初心者の俺がはたしてどこまでやれるのかは未知数だが、同棲というアドバンテージに加え、彼女には俺ぐらいしか選択肢がないという最高条件まで揃えられている。


 だが、恋愛とは気持ちが一番大事だ。たぶん。


 俺のことを好きでもない状態で玲がお嫁さんになれたとしても、それは願いを叶えたことにはならない。なぜなら彼女が望む願いには、『毎日ラブラブで過ごす』という条件もあるからだ。


「一生かかってでもお前を惚れさせるように頑張るから、覚悟しとけよ」


“ひゃ、ひゃいっ! かか覚悟しましゅっ!”


 彼女は顔を真っ赤にさせながら、俺の手をぎゅっと強く握って叫んだ。

 照れた姿があまりに可愛すぎて抱きしめたくなってしまったが、自重した。これには玲からもらえる謎のポイントが必要だからな。


 またポイントを貯めて、今度は俺から彼女に抱き着かせてもらうことにしよう。




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