第30話アキュラ

俺にとって生とは一度読んだ本に等しいものだった。

最初は僅かな既視感だった……

成長と共に既視感の正体が解ったのだ。

それは唯の創造力だった、未来視レベルの想像力、想像や予測が外れるなんてよくあるだろう。

普通はそうたが、俺は違ったほぼ一致するのだ。

故に幼少期から驚いた事が少なかった。

少し考えただけで、いや、状況を見ただけでもある程度分かってしまうのだ。

つまらない人生だった、本物の未来視であれば能力のオンオフが可能なだろうが、自分が何となく考えた事が起こるのだ。

先の事を考えない様にしても分かってしまう。

そんな中、自分の想像の外れる事が多い物があることに気づいた。

『想像した死に方と違う……戦闘方法も僅かにずれがあった…』

戦いである、戦いの生への執着のせいか相手が想像を超える動きをしたのだ。

俺は歓喜し、戦いに身を投じ、気が付けば魔王軍四天王になっていた。

魔王への忠誠心も崇高な志もない、ただ自分が楽しむ為に戦っている。

戦いですら想像通り剣を振るえば相手は勝手に死んでいく。

そんな中想像を超える事があった、アルカノイドが勇者に倒されたのだ!

ありえない事だった、想像を超える勇者パーティーの強さ、戦うのが楽しみになった。


勇者パーティーにかつて滅ぼした剣士の生き残りが居た時はがっかりしたが、仇討ちなど想像するまでも無いからな。


俺は一人で国境付近を歩いていた、暇つぶしのためだ。

「うっ……あぅ……」

そして、うめき声を上げながら歩いている異形の者を見つけた。

眼球は飛び出し、身体のあちこちに瘤がある異形の者……

これが魔物であれば俺は視界に入った瞬間に斬り伏せていただろう。

「これが人を喰った成れの果てか…」

アルカノイドの行なった作戦により多くの人間が餓死したが、そいつらは幸せだったろう。

「うっ……へっぇ…」

人だった者が俺を見て笑う、彼らは俺を魔族ではなく肉と認識している。

他の者であれば恐怖するか怒るところだろうが、俺は歓喜した、このような反応をするかと!


奴らは俺を胃袋に詰めようと襲いかかかってきた。

食うために襲いかかる敵は珍しい、俺は意気揚々と彼らを返り討ちにする。

楽しかった!相手が強かったからではない。

予想外の本能のままの動きをしたからだ、身体の損傷など考慮しない。

ただ肉を食い千切りたいという衝動のみの攻撃、それが新鮮だった。


それに比べ、あのクーンとか言ったか、勇者パーティーの剣士?あの女の仲間の剣士はつまらなかったな。

魔王様の命令で人間の集落を滅ぼした事を思い出す。

期待はしてなかたが、単純作業だった、力もスピードもあったが俺の想像を超えることはなかった。

強いが分かりやすかった、一人、また一人と想像に近い斬られかたをした。

喜びを感じる程の差がない、そして一人の若い女剣士を取り逃がした。

よくある事だ、年長者が若い者を助ける為にその身を掛ける。

何の面白味もない、結果は思ったとおり女は助かり、時間稼ぎに俺に挑んだ男は死んだ。


「まったく……せっかく生き残ったのだ、仇討ちなど考えず嫁にでも行けば良いものを……」

俺はため息をつきながらそう言うと、新たな暇つぶしを探し始めた。











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