第21話方舟

「マーシャさん?」

私は驚いた、この場にマーシャさんが居たこともそうだが…

若作りで本当の齢をキースはわからないと言っていたが、見た目は二十代後半ぐらいにしか見えない。

星の英雄と供に戦ったというのなら、すくなくみつもっても六十代のはず。

「ああ、キースの師匠だ、今日はアルカノイドについて話し合いに来た」

「長い話になる…座るがいい」

マクスウェル大神官の指示に従い椅子に座った。

「アルカノイドの事を知りたいんだって?」

「そうです、アルカノイドは他の四天王から人類を確実に絶滅させることが出来ると言われていました、マーシャさんは星の英雄と供に戦ったと聞いています、あの者の事を教えて欲しいのです」

私は頭を下げる。

「頭を上げな、教えてやるから」

「ありがとうございます」

「さて…アルカノイドが人間を絶滅させる方法、簡単に言うと兵糧攻めだ」

兵糧攻め?城攻めの時などに補給路を塞ぎ、相手を兵站切れで追い詰め方法だが……

「兵糧攻めで人間を全滅させられるのですか?」

「彼奴はな生態系を塗り替えて、恒久的な兵糧攻めをしようとしている、つまり私達が食えるものを先に絶滅させ、結果人間は皆餓死するのさ…」

「そうだ、それ程の相手だ」

「大神官様…アルカノイドは言いました、自分は救世主の遺骨を持っていると!全て苦しみから開放された人間など聞いたことがありません!何者なのですか?」

モニカが大神官に尋ねた。

「滅びた別の星の救世主だ、ガウタマ・シッダールタ、アルカノイドはそう言っていた」

マーシャさんが答えたが、滅びた別の星?

意味がわからない?アルカノイドは自分を外来の者と言ったが。

「アルカノイドのは別の星、別の世界と言っても良い、奴は星の海を渡りこの星にやってきた外来種なんだ」



魔王軍の天幕の中で私は過去振り返っていた。

私の故郷は滅んだ、もう遠い昔だ。

故郷の知的生命体は種の保存と移住を望んだ。

人々は星の海を渡り新天地まで辿り着けるよう、賢人、科学者と呼ばれる者達の知恵を集めた。

私は種を保存し運搬する方舟だ、名前はアルカノイド、私の故郷の植物由来の物質から名付けられた。

長い航海には心の拠り所……御守りのようなものを故郷の人々はもたせたかったのだろう。

人々が選んだのは救世主の遺骨だった、嘗て悟りを開き人々を導いた。

ブッダの遺骨、仏舎利と呼ばれるそれは世界各地にあり総重量は数千キロもあるといわれる。

その中から本物を探すのは不可能だった、だが人々は諦めなかった、一つ一つ骨を検査する。

本物などないのかもしれない、だが諦めなかった人々に救世主は慈悲を示した。

膨大な骨の山から光に輝く骨が飛び上がったのだ、骨は私の中に宿った。

救世主の慈悲が無ければ航海は失敗しただろう


そして永い時を経て、私はこの星に辿り着いた。

奇跡だった!

聖遺物と言う心の拠り所がなければ達成できない奇跡!私は喜びに震え故郷の種を開放した。


すぐに問題が発覚する、不幸な事に在来種の中に知的生命体が二種類も居たのだ。

魔族と人間である、人間の支配地域が近かったせいか、先に人間と交戦状態となった。

私は暴力が好きではない、だが一つの星に一つ知的生命体しか生きられない。

現実として魔族と人間は戦争と膠着を繰り返していた、私は決めた人間を滅ぼし、魔族も滅ぼしたうえで、故郷の知的生命体を復活させる。

そしてガウタマ・シッダールタを救世主ではなく、世界の王として復活させようとした。

それが五十年前の厄災と言われる出来事の真相だ、生態系を塗り替えて人間を絶滅させようとした。

だが、この惑星に異物と判断された、私に二人の人間が挑んできたのだ、彼らは言った星の悲鳴が聞えたと星の英雄ハロルドと星の魔術師マーシャ、尊敬にあたいする知性体だった。

彼らを憎むことなど無い、私はこの星の知性体に絶滅してほしいだけで嫌いではない。

むしろ故郷の知性体に近い容姿の彼らに親近感を覚えていた。

結果私は倒された、その事に憎しみはない、これは生存競争、善悪はない。

それでも私は止まれない、故郷の人々の想いに答えるために……。








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