第15話侵食
次の日になりキースは目を覚ました。
私は知らせを受けると彼のテントに向う。
「ダイナ、心配かけたな…」
笑顔で答えるキースに胸が熱くなった。
いけない聞かなければならないことがある。
「キース……君は体に手を加えたね?」
「うん?」
「あの魔力は努力で得られるものじゃない…」
「自分の意識でやったことだ、誰のせいでもねぇよ」
「……」
会って確かめ無ければならなくなった。
キースの師匠マーシャに彼の体に何をしたかを、
そして星に選ばれた英雄とは何か、本当に邪悪では無い敵が存在するのか知りたかった。
そこは広大な穀倉地帯だった、
人々の胃袋を満たし、命を繋ぐ大切な場所、
本来であれば収穫時には大きな実りがもたらされるはずだった。
黄金色に輝くはずの畑は深い緑に覆われている。
蔓性植物が穀物を覆い、日光を遮っている、数日で作物は死滅するだろう。
「アルカノイド様、穀物地帯侵略完了いたしました」
「ご苦労さま」
部下の報告に労いの言葉を掛ける。
彼女の部下は植物と人間のハイブリッドだった、言うならば自立思考できる植物、他の魔王軍とは全くの別系統、それがインヴェイド・エイアン・スピーシーズの特徴だった。
「農民が除草を試みたようですが、ツタウルシにより死亡しましたどうしますか?」
「死因は?」
「アナフィラキシーショクです、苦しんだようで全身を掻きむしったあとがありました」
「そう…不幸な事故だったわね」
「不幸ですか?」
「そうよ、私はここの人間に絶滅して欲しいのであって、苦しめたいわけじゃないの、次は農村から手を付けましょう」
農村には甘酢臭いがする煙が漂っていた。
様様な所で人々は倒れている、皆が恍惚の表情をしている。
まるで良い夢を見ているようであるが、違う!絶命しているのだ。
「誰も苦しまずに死ねたようね……土に還るように死体は全て埋めなさい…」
アルカノイドは部下たち死体を埋めるよう指示する、彼女の軍は人間を弄ばない。
痕跡を消すためでなく、人間の尊厳の為に埋葬しているのだ。
矛盾さてるようだが、彼らにとってこの世界の人間は絶滅させる対象ではあるが、憎しみの対象ではないのだ。
私達勇者パーティーは食料の補給の為に、王国軍の補給基地に立ち寄る。
ふと兵士達の姿に違和感を覚える。
『皆、痩せている?』
おかしいハガを斃して以来魔王軍は撤退した、兵糧の運搬に問題はないと思うが…
「どういう事ですか!!」
モニカの声がテントから聞こえてきた。
補給の手続きで何かトラブルがあったのかな。
「モニカどうした?」
「見て下さい!これしか食料を寄越さないんです!」
小さな小袋が二つ?少なすぎる。
よく見ると手続きの対応をした兵士も痩せている。
「兵糧がとどかないのですか?他の兵士も痩せていましたが…」
「最近農村で村人が一人残らず消える事件が多発していまして、兵糧の運搬にも支障がでています」
「だからといって!」
モニカは兵士に食ってかかる。
「やめないか彼らも苦しいんだ、途中で狩りでもしよう」
「しかし、狩猟では足りない分が補えませんよ?」
モニカの言う事も正しい、最悪魔物の肉は毒抜きすればキース達も食べれるが足りない。
「勇者様、この先にプソーと言う都市があります、この軍事手形を差し上げるので直接食料と交換していただけませんか?」
「モニカ、廻り道になるけどいいね?」
私は仲間に事情を説明しプソーを目指した。
話によるとお昼位にはプソーにつくという、都市ならば食堂ぐらいあるだろう、久ぶりにお昼は美味しものを仲間に食べさせたい。
そんな事を考えて居ると都市が見えてくる。
私達が都市に入ると人の気配がまったくない、魔王軍に襲われたのか?
「キース、モニカ何か感じない?」
「無人みたいだな……魔力反応がない…」
キースは答えるが、モニカは返事をしない。
私はモニカの顔を見る、モニカが震えていたのだ。
「モニカどうしたの?」
「この先に何か居ます……ま、魔物以外の何かが……」
モニカが動揺している?それ程の相手か?
「どうする私が先に行って様子を見てこようか?」
クーンが偵察を申し出た、いや、モニカが動揺するほどの者が居るのなら4人で行ったほうが良いな。
「皆で行こう、四天王の一人かも知れない」
私達は都市の中を進むと大きな橋があった。
橋の向こう側から人影が視える、魔族か?
私達はそれぞれ構えるが、それは自然に挨拶してきた。
「こんにちは旅の人…」
赤眼の美しい女だった、人の姿をしていたが人ではない、魔族でもない、不可解な生き物だった。
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