第8話夜明け

敵を殺せはしたが多くの人々が犠牲になった。

無事に生き残ったのはモニカが非難させた女神イシュタルの信徒が殆どで、信徒以外は体の一部が喰われて欠損したり、心に傷を負ってしまった。

彼女が言うには寄付集めの途中、あの百足の魔物の別個体に襲われて命からがら逃げ、信徒たちに逃げるよう言ったとの事だ。

一般の村人を見据えた訳ではなく、神官と言えど魔物の被害が出てないのに避難指示を出しても信用されないとの判断したと。

クーンに「モニカはあの百足の分身をぶん殴ったのか?」と聞かれていたが「私は非力な神官ですので何か思い違いでしょう…」と答えていた。

まだ仲間ですら実力を隠しておきたいらしい。

「夜が明けてしまったな……」

私は朝日を見て呟く、あれから事後処理などをして寝れなかった。

幸い宿の荷物は無事だったが、あの魔物が勇者と大声で叫んだ為に私が勇者だとばれた。

感謝してくれる者もいたが、モニカの言うようにそもそも勇者が村に来なければ良かったのではという声も上がった。

一部の者からは家族を返せと言われた、私を憎む事で遺族の心が軽くなるなら構わないが。

ふと良い匂いがした、私は匂いの方を向くとキースが両手に皿を持って立っていた。

「ダイナ、炊き出しのスープ貰って来たぞ」

「炊き出し?」

「ああ、モニカの指示で信徒達が無償で振る舞ってる」

モニカの指示か、やっぱり彼女は有能だ、自分が主導で救援活動すれば、勇者パーティーのイメージ回復を回復させると共に信仰も集まる。

「ありがとう一緒に食べよう」

近くに合った岩の上に座る。

「キース……」

「何だ?」

「汚名を被ろうとしないで、私は覚悟してるから…」

「気にすんな、俺が勝手に決めた事だ」

以前助けた時と同じで彼は本心で言ってる。

キース……私は君が思ってるような綺麗な者じゃないんだよ?



「なんじゃと?もう一度言ってみろ!」

「レッドキャップ討ち死にいたしました」

魔王軍の陣中で、四天王魔蟲のハガは部下の悲報を聞いていた。

「驚くこともないだろ」

「アキュラ、勇者抹殺が失敗したのに何を呑気な!」

「当然だろう?人間達が勇者なら魔王軍に勝てる未来を想像出来る位の力を持っているのだ」

確かにアキュラの言っている事は正論だった。

「俺達四天王とて敗れる可能性はある、その手下なら尚の事だろう」

「ここに来る前に始末したかったが…」

「下手に刺客を放つとこちらの戦力低下になる、データを取るぐらいにしておけ」

ハガは納得した、確かに情報は大事だ。

今回失敗したのは事前情報不足のせいだ処理、次は失敗しない。



夕方私は一人で墓参りをしていた、昨晩の夜襲で命を落とした者達の墓だ。

身元が分かったものはまだ良い、身元不明の骨は一箇所に集められ埋葬された。

魔物に食われると身元が分からなくなる事はよく有るが、今回は酷かった。

「ダイナ、君のそう言う所は好意を持つが割り切れ、自分の為にも……」

「クーン…大丈夫だよ」

どうやら彼女は私を慰めに来てくれたらしい、いつ以来か人の慰めをうけるのは。

「明日には神殿から神官達が派遣される、そしたら予定通り出発するからね」

次の街は物資の調達だけにしょう、私達が滞在したせいで襲われたらしょうがない。



魔物に襲われたせいで滞在が二日になってしまったが、無理なペースで皆の体が壊れても意味がない。

私はペースを上げず進む事を皆に話した。

早朝早くに神官達が村に着いた、モニカは手早く朝食を摂ると打ち合わせ行った。

これからイシュタル教団主体で復興支援が行われる。

本来は国の仕事だが、魔王軍との戦いで疲弊し余裕が無いのだろう。

荷造りは終わり、モニカが帰ってきたら出発出来るが、それまでどうしようか。

私がそんな事を考えていると部屋のドアがノックされた。

「ダイナいるか?」

「キース?どうしたの?」

「これやるよ」

キースは黄金色の液体が入った瓶を渡してきた。

「森で蜂の巣を見つけてな、蜂蜜食べてくれ」

私は戸惑った、彼から贈り物を貰う理由がない。

どういう事だろう?

クーンのように気遣ってくれたのかな?

「ありがとう」

「良いって!売るほど採れなかったからやるってだけだから……」

嘘が下手だなキースは……

私は彼が居なくなったあと、蜂蜜を指に垂らして

舐めた。

『美味しい……』

人を救う以外で幸福を感じるのは久しぶりだった。














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