第3話旅立ち
異変に最初に気付いたのは見張りの兵士だった、夜が明ける時間なのに妙に暗かった。
空に無数の何かが飛んでいた、それらは虫だった。
「魔王軍だ!」
兵士は大声で異変を知らせる。
指揮官が状態を確認し魔術師を呼ぶ。
「間合いに入り次第攻撃を!」
魔術師達は指示に従い魔力を高める、そして
虫の群体に火炎魔法を放つ。
知能ある魔物なら怯むなり止まるなりしただろう、だが、彼らは止まらない。
彼らに思考はない、思考して動くのではなく、反射だ、群体の何割減ろうが構わない。
進む、食い尽くし、増殖し、また食い尽くす為に止まらない。
「撤退する!」
指揮官は撤退を決意するが遅かった。
「ぎぁぁぁ、食われる!」
生きながら虫に食われ地獄の苦しみを味わう、虫たちは殺す為に食うのではない、増える為にくうのだ、死は結果でしか無い。
「ふむ、歯ごたえのない奴らじゃ…」
遥か後方の森で小柄な老人が白い髭をいじりながら呟く。
「順調なのはいい事だ…」
老人の背後からするコートを羽織った男が現れる、目つきは鋭く、腰には刀がある。
「アキュラ……ふっ、やはりワシ一人で良かったのではないか?」
「勇者の力がわからないからな…」
「ふん、スプライトも心配性じゃの!」
「そう言うなハガ……スプライトはお前を信頼している、勇者の力が未知数なのだ、四天王が二人同時に出陣は過剰だとは思うが……」
「これが今月の支給金です、前借りは出来ませんから!」
モニカがキースとクーンに金を渡している、私は勇者として訓練を受け、神殿と父から教えられた常識が全てだったが、それでも命を掛けた戦いに行くにしては少ないと感じられた。
「必要なものがあれば私に言って下さい、宿の手配は私がやります」
会計士も兼ねているモニカが二人に説明している。
「二人共すまない、支給金が少ないと思うだろうが、私やモニカも同じ金額何だ」
私は頭を下げる、するとクーンは笑って言う。
「今回は成功した時の報酬が本命だからな、いまは小遣いが貰えるだけでも有り難いよ…」
「ああ、ダイナは気にすんな!むしろ何で勇者の支給金が俺等と同じなんだ?」
一瞬、彼がなんのことを言っているか分からなくて返答出来なかった。
「勇者様は金や自分の欲を満たす事に興味が殆どないんです、気遣っても意味ありませんよ」
彼女が勇者様と呼ぶ時は何らかの不満を私に感じている時だ。
私が文句を言わないせいで、資金が少ないと思っているのだろう。
言うべき事は言ってるのだが、私から見れば彼女は強欲だろう。
だが、彼女はしっかりしている旅の物資を買う時には値引きしなくて良いから、確かな物を用意するよう商人に念押ししていた。
「何で俺が荷物持ちなんだ?」
モニカが用意した荷物をほぼキースに背負わした。
「女に荷物を持たせるおつもりですか?」
確かに一般男女ならそうなんだろうが、職業がらキースが一番筋力がないのでは?
神官のモニカも戦闘に特化した、武闘神官なのでそのへんの男なら片手で倒せるのだが……
私は下手な事を言うと彼を傷つけると思い、軽く謝罪することにした。
「男だからと荷物を持たせてすまない、前は私が最後尾のクーンが歩いて」
「ああ、気にしないでくれ疑問に思っただけだからよ」
私達は王都を出発した、第一の目的地は魔王軍が侵攻しているシテーピと呼ばれている草原地帯、戦線は膠着状態という。
歩いて5日ほど、そこから魔王軍を追い払える事が出来れば王都は暫く安全となる。
途中、何回か休憩を取りつつも歩き続けた、整備された道は終わり、山道、獣道といった悪路が続くがクーンとキースも遅れずついて来る。
「ここで今日は野営する」
私は野営に適した平らな場所を見つけた、まだ、明るいがこれ以上進めば斜面で寝ることになる。
私とモニカは2人用のテントでキースとクーンは1人用のテントを張った。
「男のキースが別のは分かる、見た所モニカ達のテントは三人でも寝れそうだが?」
クーンが私のテントのサイズをみて疑問を口にする、モニカは敵に襲われた時のリスク分散と言うが本当は違う、広範囲の魔法を撃たれたらテントを別にする意味は殆どない。
私の監視と私の体を他者に見せないためだ、例え同性であっても、私の肌、いや体は教団に取って秘匿したいものだからだ。
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