町田骨董市
十戸
町田骨董市
日の出から日没までと大きく書かれたいささかくたびれ黒ずんだ横広の横断幕が少しの風になびきながら神社の境内の端にかけられるその横でこの日を欠かさず楽しみに待ってきたいくにんもの人々がぽつりぽつりと土の上に防水の敷物を広げつつそこにひとつずつしなやかかつよどみない手つきで品物を並べていていくさなかにもすぐ隣りに陣を張ったご同業がいつものように挨拶の声をかけてくるもう何年も通ううちすっかりお互い顔なじみだなとどうってことない世間話からそれぞれの仕入れ事情に及ぶうちやはりいつものようにちらほら客がやってきては敷物に載せられた歳月に磨かれぬいた宝物のようなものらの来歴やいわくや取り扱いなどなどを熱心に尋ねてはそれらをそっと触ってはひっくり返してたしかめる手つきにあそこの着物が包まれこちらのダイヤのブローチが売れ花の欠けたかんざしが嫁に行きただ古いということ以上の得体の知れない真鍮の鍵とガラス瓶たちがどんぶらこっこと引く手あまたに求められところ狭しと陳列されていたそれらが少しずつ少しずつ減っていく人間よりもはるかな日々をこえて生き抜いてきたものらがまた再び人の手を介して山から海へそそぐ川の流れのように集まっては散らばりまた集まってくるこの骨董市の静かな熱狂と穏やかな興奮の風を受けてまたひとつ日の出から日没までと大きく書かれた横断幕が神社の境内の端でまたわずかに身じろぎをした。
町田骨董市 十戸 @dixporte
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