第100話 九州動乱の始まり
筑後国における大友家の支配は苛烈を極めていた。
戦のたびに筑後国衆は徴兵され、筑後の国衆は常に最前線に立たされ、大友家の一門衆や譜代家臣たちは常にその後方にいた。
もしも逃げるぞぶりを見せれば、背後から大友家の兵に斬られる。
さらに、どんな遠方の戦いであっても、必ず召集され最前線で戦わされるのだ。
つまり、戦では筑後国衆は常に大友家の盾代わりにされ、筑後国衆は大友家で戦がおこるたびに甚大な被害を出していた。
さらに、大友家で行われる儀式において筑後国衆は貢物を持ってくることが義務付けられ、持ってこなかったというだけで謀殺された筑後国衆もいた。
朝廷や幕府の任官叙位、そして家督相続にまで大友家の指示と許可を得なければならないとされている。
当然、筑後国衆の中では不満が溜まっていくことは大友家も分かっていた。
筑後には十五城と呼ばれる大身の大名15家がある。
この十五城と呼ばれる15家を監視するために、大友家から筑後に監視のための国衆も入れていた。
表向き15家は大友に従っているが、家々により温度差があった。
筑後で12万を有する15家筆頭である
筑後国衆からしたら、奴隷に近い扱いと感じているからである。
そんな大友寄りの蒲池を除いた筑後の国衆に、毛利と秋月からの調略がかかり始めていた。
筑後国・
やや小さな平城である。
城主である西牟田鎮豊は、大友家が代々筑後国衆に行ってきた仕打ちに憤っていた。
西牟田家は、たびたび大友家に叛旗を翻している。
若く血気盛んな西牟田鎮豊は、同じ筑後国衆で大友に憤慨している小山氏・三池氏・溝口氏を密かに呼んでいた。
「大友の当主が義鎮に代わっても我ら筑後国衆に対する扱いは変わらんだろう」
「西牟田殿の申す通り。確かに,常に我らの扱いは牛馬の如き扱いは変わらん。我らがいくら死のうと構わんという態度だ」
「三池殿。もはや我慢ならん。そう思わんか」
「確かにそうだ・・だが・大友の力は大きい。過去に幾度となく叛旗を翻してきたが,大友の圧倒的な戦力の前に我らは敗れてきた」
「今回は違うぞ。毛利と秋月がいる」
「大内殿が滅び,毛利に変わっただけ。毛利は本気で我らのために大友と戦ってはくれんだろう」
「いや,どうやら今回は違うようだ」
「違う?どう違うのだ」
「毛利と秋月が本気で動くようだ」
「今更なぜだ」
「将軍足利義藤様のご指示らしい」
「上様が・なぜ」
「上様は,南蛮人の宗教を危険視しておいでだ。そのため伴天連禁止令を出された。だが,大友義鎮は家中の反対を押し切り伴天連と手を結んだらしい」
「それは上様に逆らうことと同じではないか。今の将軍家は,一昔前とは違うぞ。力を取り戻して既に毛利まで従えている」
「だが,大友義鎮は上様に逆らいその上で,伴天連と南蛮人の商人を利用して,九州の全てを手に入れるつもりだ」
「上様と事を構えるなど,大友家中でも反対が出るはずだ」
「大友家中では,密かに伴天連反対派の粛清が始まっているそうだ」
「伴天連と手を結ぶなどとは正気なのか。騒動が起こるとしか思えん」
「実際,豊後国内では寺社との争いが起き始めているそうだ」
「そういえば,豊後で一部の寺社が焼き討ちされたと聞いた。そのことか」
「さらに上様は私闘禁止令を西国大名に出された。勝手に他領を攻めれば処罰するそうだ」
「大友が表面上静かなのはそれが原因か」
「そうだ。上様は大友を攻める大義名分を作ろうとしている」
「我らはそこにどう乗れば良いのだ」
「我らは毛利殿の動きに呼応する。毛利殿の兵が盗賊のふりをして豊前から大友領に入り,大友領を荒らす。当然,大友は怒るが毛利は盗賊であろうから毛利は知らんと言う。それを幾度か繰り返すそうだ。これで毛利領に攻め込めば上様が大義名分を得ることになる。どうやら,毛利殿は他にも何か策を仕掛けるそうだ」
「我らも盗賊のふりをして大友領を荒らせば良いのか」
「そうだ。ただし万が一を考え,素性がすぐに分かる者達は使えぬぞ」
「当然だ。大友に大義名分を与える訳にはいかんからな」
「肥後の菊池義武殿はどうする」
肥後菊池義武は大友義鎮の叔父にあたる。
名門菊池家乗っ取りのために菊池家に送り込まれたものの,大友家から独立を画策。
大友義鎮の父である大友義鑑と激しい戦いを繰り広げていた。
「そちらも毛利殿が動かれる」
「分かった」
「我らが大友の支配から脱するまたと無い機会だ。これをうまく使おうぞ」
筑後国衆たちは大友の支配から脱するため密かに動き出した。
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