第96話 伴天連大名への一歩

豊後国府中大友館

「惨めなものですな、父上」

広間奥の上座に座る大友義鎮は扇子を左手でゆっくりを扇ぎ、肘掛けに右肘を乗せいた。

その目の前には、後ろ手に縛られた男がいた。

大友義鑑である。大友義鎮の父であり豊後守護大友家の当主。

その男が後ろ手に縛られ床に直接座らされていた。

髪は髷が落ちて乱れたまま。

そんな姿を大友義鎮はとても愉快そうに見つめている。

「この親不孝者が」

「おや、父上は私を消そうとなされたのでしょう。ならば、実の子とも思っていなかったのでしょう。親子の情も無い、そんな相手にそんなことを言いますか」

「貴様」

大友義鑑が怒りのあまり立ち上がり飛びかかろうとした時、周囲にいる義鎮の側近である武将たちが押さえつける。

「ウグッ・・・貴様ら、義鎮に加担するのか、この謀反人どもが」

大友義鎮は少し呆れた顔をする。

「この義鎮が父の味方を残らず滅しましたから、もはやこの大友家に父上の味方はおりません。父上が余計な真似さえしなければ、この先も安泰な日々であったでしょうに、実に残念なことですな。もっともこの乱世の世、親子・兄弟・身内で殺し合うことは珍しくも無いでしょう。父上もそうやってのし上がってきたでしょう。その順番がようやく父上に回ってきただけですよ」

大友義鑑は弟の義武と仲が悪く、骨肉の争いを繰り広げていた。

「貴様の兵の中に伴天連の十字架を下げたものが多数いた。あれはなんだ」

「ほぉ〜、よく見てますな。ならば、父上も分かっていて聞いているのでしょう」

「伴天連に魂を売ったのか」

「そんな人聞きの悪い。お互いに利用しているだけですよ。父上も伴天連を利用しようとしたでしょう。伴天連からしたら誰と組んだらもっとも利益が上がるのか比べて、この義鎮を選んだだけですよ」

「貴様正気か」

「何を言ってるんですか、正気ですよ。伴天連とは持ちつ持たれつ」

「何を考えているんだ」

「伴天連の力を最大限に利用すればこの九州を大友でまとめ上げ、九州をまとめ上げることができたら、少なくとも西国を我が手にできるはずです」

「上様がそのようなことを認めるはずが無い」

「伴天連の国を作ってしまえば、南蛮人も手を貸すしかないでしょう。そうなれば上様であってもそう簡単に手出しできないでしょうな」

「伴天連の国だと」

「そうですよ。素晴らしいと思いませんか」

「まさか貴様、伴天連に入信したのか」

「表向きは敬虔な仏門の信徒ですよ」

「表向きはだと」

大友義鎮は口元に笑いを浮かべる。

「上様には、できるだけ大義名分を与えないようにしなければなりませんからな。できる限り時間を稼いでこちらに手出だしできないようにしたいですから、敬虔なる仏門の信徒なのですよ」

「神や仏を恐れぬ振る舞いだ」

「それは褒め言葉として受け取っておきましょう。この世は生き残ったものが尊いのですよ」

「他の大名家の領民を連れてきたのか。他の大名から攻める大義名分を与えたことになるぞ。大友家は終わりだ」

「いやいや、そんな人聞きの悪い。まるで攫ってきたかのような言い方をされては困りますな。皆、自主的にこの義鎮に力を貸してくれただけですよ。その中に伴天連がたまたま多くいただけ、大義名分にもなりませんな。攻めてくるなら攻めればいい。返り討ちにしてやりますよ」

大友義鎮は自信たっぷりの態度を見せている。

「そんな戯言が通じると思うのか」

「ハハハハ・・・」

「気でも狂ったか」

「伴天連宣教師を通じて火縄銃を格安で100挺手に入れ、それを手本に量産させております。周辺大名達は根こそぎ踏み潰してやりますよ」

「火縄銃だと」

「上様の強さの一つは圧倒的な火縄銃の数。上様には劣りますが、100挺あれば周辺大名たちの先鋒ぐらいであれば、一方的に壊滅させることはできます。先鋒がなすすべなく一方的に壊滅すれば大勢はほぼ決したと言ってもいい。お分かりか父上。乱世は力こそが全て」

大友義鎮は家臣に目配せをすると家臣達は、縛られたままの大友義鑑を引っ立てていく。

「な・何をする。離さんか、そ・そうだ。塩市丸はどうした。無事なのか」

「敵の旗頭を放置するはずが無いでしょう。放っておけば再び牙を剥いてきますから処分するに決まっている。父上もやってきたことですよ。私はそれに倣っただけ」

「貴様、お前の弟だぞ」

「言ったはずですよ。この乱世の世は、親子・兄弟・身内であっても殺し合うことは珍しくないと。それに、血の濃さは憎しみに変わるもの」

大友義鑑は、信じられないものを見るような目で大友義鎮を見ていた。

「儂はとんでもない男を世に放ったのか・・・・・」

「連れて行け」

大友義鑑は引きずられるように広間から連れ出されていった。

大友義鎮は側近の家臣に命じる。

「父の右筆に大友家の家督は、この大友義鎮に全て譲るとの遺言書を書かせろ」

「遺言書ですか」

「そうだ。力が全てではあるが、一応体裁は整えねばならん。大友家の家督を儂が手にするための大義名分を整えるのだ」

「承知いたしました。直ちに」

大友義鎮により九州の地に新たな火

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