第92話 南蛮人
冷たい風が吹くようになり、冬が近づいてきている事を予感させる。
そんな摂津国に出来上がった商都大阪に南蛮人たちが上陸した。
伴天連宣教師フランシスコ・ザビエルを含む南蛮人の一行であった。
フランシスコ・ザビエルは天文18年8月に薩摩国に上陸した後、翌年8月肥前国平戸を訪れ、その後さらに周防を訪れようとしていたが、大内家が滅びその後に陶隆房と毛利元就の戦いが勃発。毛利の勝利で終わったがその余波が九州まで飛び火しかねない情勢となり、政情不安と事前に毛利から上陸を拒否されたため周防行きを断念。
なんとか伴天連布教の糸口を掴みたいとして、九州に留まり続けていた。
一行がどうしたものかと考えていた時、日本人信者から将軍の事を聞き、布教のためにぜひ会いたいと考え商都大阪に向かったのであった。
突如、摂津沖合に現れた南蛮船。
その南蛮船から降り立った南蛮人たちに大阪の人々が誰もが注目していた。
商都大阪には境からも多くの商人が店を開いていた。
商都大阪は幕府直轄地であり、幕府が整備した街であるため、商都大阪だけは基本勝手な土地売買は禁じられており、土地の賃貸の形をとっていた。
それでも多くの商人たちが集まってきている。
そんな商都大阪を進む南蛮人たち一行。
南蛮人一行の先頭には、十字架を首から下げた若い男の日本人がいた。
通訳の与四郎である。
「ザビエル様。間も無く摂津代官所に到着いたします」
「ヨシロウ。コノマチワトテモ、カッキニアフレテマス」
「将軍様が特別に力を入れて整備している街です」
「ソウナノデスカ」
「ここはもともとまともな街も村も無かったところで、人が住む事ができない沼地や湿地だったところがほとんどでした」
「マサカ、ココガヌマチダッタ?」
与四郎の言葉に驚く。
目の前に広がるのはどこまでも続く商人の店と民家や武家屋敷。
南蛮人一行の全ての者達が、ここが少し前まで湿地や沼地だと言われても、信じる事ができなかった。
「将軍様の指示のもと大規模な干拓工事が行われ、わずかな期間でこれほどの街を作り上げたのです」
「イクラナンデモ、ムリデワナイノデスカ」
「いえ、本当のことです。将軍様はとても優れたかたと言われております。きっと私たちの願いを聞き届けてくれるのではないかと考えております」
「ヨシロウ、ホントウニ、ショウグンサマワ、アッテモラエルノデスカ」
ザビエルは期待と不安の入り混じった表情をしていた。
「将軍様と親しい堺の商人でもあり、茶人でもある彦八郎殿(後の今井宗及)を通じてお願いいたしましたら会っていいただけるそうです」
「ソノカタワ、ソレホドマデニエイキョウリョクガアルノデスカ」
「将軍様とは茶の湯仲間と聞いております」
「チャノユ?シタシクチャヲノムナカトイウコトデスカ」
「簡単に言ってしまえばそのようなものかと」
一行の先に摂津代官所が見えてきた。
「アレガ、ホントウニダイカンショナノデスカ」
目の前に巨大な平城が見えていた。
「ハハハハ・・誰でもそう思いますよね。誰がどうみても代官所ではなく、城ですよね。でも、一応摂津代官所と呼ばれてますから」
摂津代官所の周辺には警戒している多くの兵の姿が見えていた。
その多くの兵が火縄銃を装備して油断なく周辺を警戒している。
周辺を警戒する目つきは皆鋭く、些細な事でも見逃すまいとしていた。
「コレホドマデ、ナゼヒナワジュウヲモッテイルノダ」
「噂では、将軍様は数千挺もしかしたら1万挺以上もの火縄銃を持っていると言われており、直属の工房で日々改良を加えていると言われております」
南蛮人一行の顔色が悪くなる。
日本の中心とも言える畿内でまさかこれ程までに火縄銃が普及しているとは思っておらず、その数に南蛮人たちは驚いていた。
九州では火縄銃を軍勢に持っている大名を一人も見なかったからである。
「マサカ、コレホドトワ」
そして同行している南蛮人の商人を装った
「マテオ様、どうされました」
「ヨシロウ。オオクノヘイガ、ヒナワジュウヲモッテイル。コレガフツウナノカ」
「先ほども言いましたように、将軍様は大量の火縄銃をお持ちです。将軍様の直属軍と将軍様にお仕えしている幕府重鎮のところに大量の火縄銃を配備して、その圧倒的な攻撃力で敵対的な大名を軒並み打ち倒し、畿内周辺では乱世を終わらせております」
「ミタメカラカンガエル、ヒナワジュウノシツガトテモタカイ。ワレラノモノヨリモ,コウセイノウノ,カノウセイガアル」
「専用の工房をお持ちですから、そこで新しい火縄銃を製造していると聞いています」
「ヒナワジュウヲモタナイヘイハ、タテヲモタナイノデスカ」
「日本の武士は盾を持ちません」
「ミヲマモルモノガ、ナイデショウ」
「武士の考えとしては、盾を持てば動きが遅くなり動きが制限されてしまう。ならば盾も持たずにその分身軽になることで敵より先に動き、先に敵を斬り倒すとの考えから、盾を持たずに身を守る事より先に、敵を倒す事を主眼にしていると言われております。さらに言えば、日本の刀で敵を斬るには、両手でしっかりと持って振り抜かねば、敵を斬り倒す事ができないからとも言われておりますからでしょう」
「ナント、ソレホドマデニ、コウセンテキナノデスカ」
マテオと名乗る南蛮人の軍人は、将軍の軍事力をみてこの先の戦略を考え直すしか無いと考え始めていた。
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