第87話 銀山謀略戦
将軍足利義藤は、安芸国にもどる毛利元就に自筆の掛け軸と茶器を与えていた。
毛利元就は家宝にすると言って大事そうに抱えて安芸国に帰って行った。
毛利元就が帰ることと入れ替わりに、西国の情勢を探らせていた伊賀衆の報告が上がってきた。
将軍足利義藤の前には伊賀の服部保長がいる。
「保長。西国の情勢について報告を聞こうか」
「はっ、出雲国・尼子晴久が石見銀山を狙い動き出そうとしております」
「尼子晴久が動き出そうとしているだと」
「はい、間違いなく」
「儂の警告を無視するということか」
「一応、上様からの介入を防ぐことも考えているようです」
「儂に介入させないだと」
「毛利の家中で謀反もしくは裏切らせてから大義名分を作り、石見への介入を行うつもりのようです」
「大義名分を作る。なかなか小賢しい事を考える」
「それだけ上様を恐れているとも言えます」
「毛利はこの事を知っているのか」
「毛利元就はすでに知っているはずです。尼子の情報は全て毛利に筒抜けでございますから」
服部保長の言葉に将軍足利義藤は驚きの表情をする。
「なぜ尼子の情報が毛利に筒抜けなのだ。尼子晴久ほどの武将であれば、情報の秘匿には細心の注意を払うはずだ」
「尼子晴久のすぐ近くに毛利の放った草・・つまり毛利の忍びが何食わぬ顔で尼子晴久の側近くにて仕えております」
「毛利の草だと」
「はい、盲目の琵琶法師を隠れ蓑にした毛利の忍び座頭衆の一人が、尼子晴久の寵愛を受け何食わぬ顔で寵臣として尼子晴久に仕えています。そのため、その琵琶法師から尼子のあらゆる情報が全て毛利元就へ漏れております」
「なんだと」
「毛利と言っておりますが、どうやら毛利の忍びを束ねているのが小早川隆景のようです」
その瞬間、毛利も隣の隣で飄々としていた男の顔が浮かぶ。
「奴か、毛利元就の三男。なかなか食えぬ男のようだ」
「場合によっては、毛利元就以上に危険な男かもしれません」
「味方であればいいが、敵に回す場合は気を付けねばならんな」
「小早川隆景は敵とお考えで」
「まだ敵ではないが、もしもの場合を頭には入れておかねばならん」
「ならば尼子と毛利に関してさらに探りを入れましょうか」
「少し詳しく探って見てくれ」
「承知いたしました」
ーーーーー
京より戻った小早川隆景は留守中の報告を家臣達から受けていた。
「殿。尼子晴久のところに潜り込ませている座頭衆の
小早川隆景の前には、毛利が使うもう一つの忍びの集団である世鬼一族を率いる世鬼政時の長男である世鬼政定が控えていた。
世鬼一族の忍びの人数は少なく20〜30人程度と言われている。
世鬼政時は毛利元就の側に控え、長男である政定は小早川隆景の下で謀略・調略を担当していた。
「角都はなんと言ってきた」
「殿の見立て通り、石見銀山を狙って動き出しそうです。すでに石見の国衆に接触を始めております。調略して尼子側に引き込もうとしているようです」
「流石に強気の尼子晴久であろうとも、真正面から上様に喧嘩を吹っ掛けるわけには行かんだろう。ならば、石見の国衆を裏切らせて援軍名目で石見に乗り込むしかない。当然の動きだな」
「今のところ尼子に靡いた国衆はおりません」
「ならば、尼子配下の新宮党に関してはどうだ」
新宮党とは、尼子晴久配下の中でも最強と言われる精鋭集団である。
その勇猛さと精鋭ぶりで尼子家中で圧倒的な発言力を持ち、時にはその傲慢なる態度・物言いにたいして、多くの重臣達との確執が生まれ、さらにそれが尼子晴久との仲に軋轢を生じさせていた。
「元々新宮党は傲慢なる振る舞いと物言いで家中の評判は悪くなっております。角都からすれば元々燃えていた火に油を加えて、小火を大火に変えるだけ、新宮党と尼子晴久の中を悪化させることは至極簡単なことでしょう」
「それで尼子晴久は、新宮党をどうするつもりなのだ」
「どうやら新宮党を残らず全て我ら毛利にぶつけて処分するつもりとのこと」
「それでは我らが貧乏くじを引かされることになる。新宮党相手では被る被害はかなりのものになる。まともに相手をする訳にはいかん。新宮党と我ら毛利が潰し合いをすれば、尼子晴久が喜ぶことになる。内部の敵を外敵に処分させ、同時に外敵である我ら毛利の弱体化を狙うか」
「如何いたします」
「ならば、出雲国の中で尼子晴久と新宮党で潰し合いをしてもらおう」
「奴ら尼子同志で潰し合いですか」
「そうだ。それが一番効率的だ。角都に伝えよ。新宮党が謀反を企んでいると尼子晴久にふきめと。世鬼は角都を手伝え。それと新宮党の連中周辺に、尼子晴久が新宮党を目障りと考えて、密かに処分しようと考えていると噂を撒け。可能なら数人事故に見せかけて消せ、そしてそれが尼子晴久の仕業のように見せかけろ」
「はっ、承知しました」
「新宮党さえいなければ、尼子晴久など恐るに足りず。逆に内輪揉めが始まったら、新宮党を助ける名目で出雲に介入して両者を打ち取ればいい。親父殿にはそのように伝えるとするか」
小早川隆景は立ち上がると毛利元就のいる郡山城へと向かうのであった。
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