第81話 謀反の結果
将軍足利義藤は、伊賀の精鋭三百を御所の守りを固めるために一足先に送り出していた。
伊賀忍び達は、期待に応え御所周辺の伊勢貞孝の軍勢三百を追い払って、守りを固めようとしている。
服部保長率いる伊賀の精鋭は、火縄銃150挺と大量の焙烙玉を用意していた。
「柵を急いで用意しろ。必ず奴らは戻ってくる。上様の援軍が来るまでここを・御所を守り抜くぞ」
伊賀の忍び達は、服部保長の指示の下、京の街を利用したゲリラ戦の準備をしている。
あるものは屋根の上に登り、あるものは建物の影に身を潜め伊勢貞孝の軍勢を待ち構えていた。
しばらくすると遠方から焙烙玉の爆発音が聞こえてきた。
「来たぞ。気を抜くなよ」
今度は次々に焙烙玉の爆発音が聞こえてくる。
焙烙玉には、殺傷力を高めるため、火薬の他に鉛の玉や小石などを詰め込んであり、爆発すると周囲に飛び散り、爆発に巻き込まれなくとも、爆発で飛んできた鉛の玉や石で怪我人が続出していた。
爆発に巻き込まれ倒れた者、鉛の玉や石で大怪我を負い動けぬ者、多くの血が流れ呻き声が響いている。
屋根の上から投げ込まれる焙烙玉や煙玉で既に伊勢貞孝の軍勢は混乱状態にあった。
煙で視界が悪いところに紛れ込んだ伊賀の忍びにより同士討ちが始まる。
「敵が紛れ込んでいるぞ」
「敵だ〜、敵だ敵だ敵だ〜」
伊勢貞孝の軍勢は煙に巻かれ同士討ちによりさらに混乱に拍車がかかる。
周囲の建物にも被害が及ぶが、戦いが始まる前に周辺の住民は既に逃げ出し、家々には誰もいなかった。
高い建物の上に上がり、戦況を見守る服部保長。
そんな服部保長の後ろから声がする。
「どうします。火を使いますか」
服部保長の下に中忍の伊賀崎道順が火を放つかどうか聞いてきた。
伊賀崎道順、別名楯岡ノ道順と呼ばれ伊賀屈指の忍びである。
服部保長と同じ伊賀上忍である藤林長門の配下の忍びであるが、急遽服部保長が伊賀の里から呼び寄せた精鋭伊賀衆の一人であった。
どんな難攻不落の城であっても伊賀崎道順にかかれば、落城するとまで言われる忍びである。
「敵の動きはどうだ。効果的に使えるのか」
「ほぼ一塊に近い。今なら火を効果的に使える」
「よかろう。火を使え、儂が責任を持つ。ただし、最小限にせよ」
「承知」
一瞬にして伊賀崎道順の気配が消えた。
服部保長は、将軍足利義藤から最悪火を使い伊勢の軍勢を撃退して良いとの指示を受けていた。
しばらくすると、火の手が上がるのが見えた。
同時に強烈な油の匂いがしてくる。
「燃える水を使ったか」
火がつけば猛烈な勢いで燃え上がる越後の燃える水を使っていた。
あかり取りの油より強い発火力により瞬く間に燃え広がり、伊勢貞孝の軍勢が火に巻かれていく。
ーーーーー
伏見の龍奇衆を預かる
龍騎衆の中でも馬の扱いに長けた者達を選んでいる。
先行して御所を守る伊賀衆に異国も早く合流して、共に御所を守るためであった。
将軍足利義藤からは、伊勢の軍勢を御所に近づけるなとの命も受けていた。
そのための精鋭三千騎の騎馬隊であり、将軍足利義藤の本隊より先行して御所へと馬を走らせている。
「急げ急げ、時は待ってくれんぞ!急げ。一刻も早く御所に辿り着くぞ」
馬を操りながら配下に檄を飛ばす。
「大舘様。前方に火の手が見えます」
前方を見ると大量の煙を上げて燃え盛る炎が見えた。
「なんだと、まさか御所が燃えているのか」
「いえ、どうやら違うようです。御所の手前の屋敷や民家が燃えているようです」
御所の方からは、逃げてくる足軽や武将が見えた。
「あの旗印は伊勢家の旗印。伊勢貞孝の配下の者達です」
大舘晴光は配下の騎馬隊に向かって声を上げる。
「目の前にいるのは伊勢貞孝の配下の者達だ。一人も逃すな!伊勢貞孝がいたら必ず討て、逃すな」
大舘晴光の檄に応えるように鬨の声をあげ、騎馬隊は逃げ惑う伊勢の軍勢を討ち倒していく。
「伊勢貞孝〜どこだ〜。この大舘晴光が直々に引導を渡してやるぞ。上様に弓引く愚か者。どこだ!」
大舘晴光の声が戦場に響き渡っていく。
そこに駆けてくる騎馬隊が見えた。
「あの旗印は、三淵殿か」
琵琶湖口にいた龍騎衆を率いている三淵晴員の軍勢であった。
「大舘殿、伊勢貞孝はどこに」
「分からん。今探しているところだ。どこかに隠れているのか、必死に逃げようとしているのか」
「伊勢の軍勢はほぼ壊滅状態のようだ。あとは伊勢貞孝の首を上げるだけだ」
「どこかに隠れて我らをやり過ごそうとしているかもしれん」
「ならば、我らの手勢も使い虱潰しに探すこととしよう」
「分かった。手分けして探すとするか」
「先祖代々将軍家に仕えながら、このような真似をするとはなんたる不忠者だ」
伊勢貞孝の捜索を始めようとした時、少し離れた民家の小屋に何か動いたように見えた。
三淵晴員は配下の龍騎衆を手招きして呼ぶ。
「あの小屋を調べよ」
指示を受け一斉に小屋を包囲して、一気に引き戸を開け放つ。
小屋の中からは伊勢貞孝が隠れているのが見えた。
「伊勢殿。ようやくお会いできましたな。最後ぐらいは武士らしくされよ」
伊勢貞孝は叫び声を上げながら家臣と共に斬りかかってきたが返り討ちに合い、そのまま地に伏すこととなった。
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