第68話 厳島の戦い(1)
天文18年9月下旬
安芸国佐東郡佐東銀山城
大内家の城である佐東銀山城の城番を務める冷泉隆豊は,毛利元就の説得を受け城を明け渡していた。さらに,草津城の城番も元就の説得により開城させている。
そして,その佐東銀山城に毛利元就・毛利隆元・吉川元春ら毛利主力の軍勢約三千が集結していた。
「親父殿。もう少しドンと構えておれ」
「元春。分かっておる」
毛利元就は,そうい言いながらも広間の中を歩き回っていた。
「隆景様が京より戻られました」
家臣の声と同時に小早川隆景が広間に入ってきた。
「首尾はどうであった」
小早川隆景は,笑みを浮かべ懐から書状を出した。
「上様から陶隆房討伐許可状と陶隆房討伐後,周防・長門・石見・安芸・豊前・筑前・石見銀山を毛利が治める許可状だ」
「ハハハハ・・・さすが隆景。それで,上様からの条件はなんだ」
「一つは京に身内を人質として差し出すこと。二つ目は石見銀山で取れる銀の六割を差し出すこと」
「最悪,石見銀山は丸ごと将軍家に差し出すつもりであったが,六割で済めば上出来だ」
「上様からの書状があれば渋る村上水軍の連中も動くことになる。陶隆房の動きは」
「玖珂郡の今津・室木の浜から2万の軍勢と500艘の船団で海路厳島へ向かった。すでに厳島に上陸して我らの宮尾城を包囲している」
陶隆房は,海路の要衝である厳島を掌握して,安芸国沖合の制海権を握ろうとしていた。
「なら,乃美に説得を急ぐように指示する」
「急いでくれ。我らは先に草津城に行くぞ」
村上水軍の内,因島の村上水軍は小早川家に従っていた。
残るは能島村上水軍と来島村上水軍。
小早川隆景の重臣である乃美宗勝が交渉に当たっている。
水軍の城である草津城沖合には,すでに因島村上水軍の二百艘の船が集結していた。
毛利元就は全軍を率いて草津城へ移動を開始する。
毛利元就が草津城に到着するとそこには小早川勢と能島村上水軍と来島村上水軍が待っていた。
沖合には能島村上水軍と来島村上水軍の船三百艘が到着している。
草津城に到着した毛利元就らの前に一人少年が進み出てきた。
「能島水軍の村上武吉だ。毛利に1日だけ手を貸してやる」
傲慢とも取れる言い草をする村上武吉に対して、毛利元就は気にする様子も見せず笑顔であった。
「儂が毛利元就だ。よろしく頼むぞ」
「京まで出向いて陶隆房の討伐許可や、大内家の所領をかっぱらう許可を将軍家から貰うとは、どんな脅し文句を使ったんだ。俺たち海賊を上回る盗人ぶりだぞ。どいつだ、俺たち海賊も真っ青になるような盗人猛々しい奴は」
村上武吉の後ろでは、武吉の傲慢な物言いに顔を青くしている人物がいる。
「武吉。もう少し言葉を考えろ」
「叔父上。我らは海の民。陸の事情に縛られん」
武吉が叔父上と呼ぶのは、叔父で後見人である村上隆重。武吉の父の弟である。
「それはこの俺、小早川隆景だ」
「ヘェ〜、いい面構えしてるな。大名に飽きたら、俺んところに来て一緒に海賊やろうぜ。いつでも歓迎するぞ」
「ハハハハ・・・そいつは嬉しい誘いだが、当分の間は飽きそうに無いな」
「チッ・・仕方ねえな」
「その代わり面白い戦いにしてやるさ」
「そうかい。期待してるぜ」
「ハハハハ・・若い奴らは元気があっていいな。挨拶が済んだら厳島にいる陶隆房を叩き潰すぞ」
毛利元就は、厳島の方を見つめていた。
ーーーーー
毛利の軍勢は、厳島の陶隆房を奇襲するため夜の海を厳島に向かう。
軍勢は三つに分けられ、第一軍は毛利元就・毛利隆元・吉川元春ら毛利主力。第二軍は小早川隆景と村上水軍の一部。第三軍は、村上水軍で日の出とともに陶っ水軍を焼き払う手はず。
毛利元就・毛利隆元・吉川元春たち毛利の主力は、戌亥の刻(21時)ごろに陶軍の手薄な筒ヶ浦と呼ばれている厳島東側の浜辺に上陸。
上陸した毛利の軍勢は、宮尾城を包囲する陶隆房を背後から攻めるため、吉川勢を先頭に山に入り、険しい山道を進軍していく。
第二軍となる小早川隆景は、密かに厳島の大鳥居まで近づいていた。
岸には夜陰に浮かぶ篝火が見え、周辺に警戒する兵達が見えている。
「さて、ここからが正念場だ。親父殿がしっかり調略済みであればいいが」
小早川隆景達は、ゆっくりと岸に近づいていき素早く上陸する。
そこに数人の男達が近づいて来る。
「そこにおられる者達は、どこのもの達だ」
「筑前からの援軍でございます。援軍に到着したので陶殿に挨拶をしたいので、陶殿に御目通りする」
小早川隆景の言葉に一人の男が前に進み出る。
「話は聞いている。我らは毛利元就殿の味方だ。時間が来るまで、そのまま筑前からの援軍のふりをしていろ」
「承知した。陶の軍勢が包囲している宮尾城へはどう行けばいい」
「我らが案内するから付いてきてくれればいい」
「陶軍の様子はどうだ」
「軍勢の多さにすっかり気が緩んでいる。ほとんどの奴らは、今頃は大酒を食らって酔い潰れている頃だろう」
「ならば問題ない。夜明けとともに総攻撃を開始する」
小早川隆景の軍勢は、陶隆房の援軍のふりをしながら攻撃開始まで身を潜めるのであった。
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