第46話 播磨国平定(5)
この頃の姫路城は現代の姫路城と違い、中世の頃の山城であった。
姫山の地形を巧みに取り入れた作りとなっている。
姫路城は播磨国中央付近にあるため、守護である赤松家は分家筋にあたる小寺家を城代として置いていた。
その小寺家は居城を御着城としていたため、小寺家の家老となった
そんな黒田職隆のもとを枝吉城主である義父の明石正風が訪ねてきていた。
「お〜万吉は可愛いのう」
明石正風は外孫の万吉(後の黒田官兵衛)の様子を見る名目で姫路城に来ていた。
娘が小寺家の養女となり、黒田職隆に嫁いでいたからだ。
「おじいさま、おひさしゅうございます」
万吉の挨拶を聞いた明石正風は好好爺の如き表情を浮かべ万吉を見ていた。
「お〜儂に似て利発ではないか、儂によく似ているではないか、幾つになった」
「さんさいにございます」
「今度儂が武芸の手解きをしてやるからな」
「はい」
黒田職隆が咳払いをする。
「ハハハハ・・すまん。外孫の万吉が可愛くてな」
「万吉。大事な話をするから奥に下がっていなさい」
「はい」
万吉は、女中に手を引かれながら奥の部屋へと連れて行かれた。
明石正風は、急に厳しい表情に変わる。
そんな明石正風に黒田職隆は東播磨の情勢について尋ねた。
「明石殿。東播磨に入った幕府の軍勢の事ですな」
「そうだ。三好勢を主体に3万の軍勢が東播磨に入った」
「別所就治はどうなりました。奴のことですから戦ったのではありませんか」
「別所就治は敵方が移動で疲れていると考え、幕府側が東播磨に入ったその日に眠っているところを狙い夜襲を仕掛けたが、そこを待ち伏せされ返り討ちとなり城を奪われた」
「夜襲を利用され返り討ちですか、夜襲がバレていたということですな。別所就治は討死ですか」
「命は助けられ、将軍家と守護赤松家に忠節をつくことを誓い、妻子を人質に出すことになったそうだ」
「将軍家に忠節ですか、なぜ将軍家なのです」
「幕府の軍勢は、三好勢2万。足利将軍家直属の軍勢1万。合わせて3万であり、足利将軍足利義藤様自らが軍勢を率いて東播磨に入られたのだ」
「なんと、将軍様自らの出陣ですか」
「そうだ。どうやら将軍様は、播磨国内が赤松家の下でまとまっていないことが、尼子や山名・毛利の介入を招き播磨国の騒乱が収まらぬ原因と考えておられ、守護赤松家に代わり将軍様自ら反抗的な国衆を討伐することにされたようだ。そのことは赤松晴政様にも将軍様から書状が届けられている。将軍足利義藤様は今までの将軍様とは違う。既に畿内は将軍家が完全に掌握している状態だ」
状況を説明しながら厳しい表情を崩さぬ明石正風。
「かなり以前から将軍様のことは、我が手の者達からの知らされております。将軍様はかなり手強く強かであるとの情報が入っており、油断のならぬお方。細川晴元殿を討ち倒し瞬く間に畿内を制圧。特に大量の火縄銃を使いこなして、戦となれば敵が近づくことができぬまま一方的に討ち倒すとのこと」
黒田職隆は、多くの長屋を作り貧しい者たちや下級武士、多くの行商人達、領民を住まわせて彼らを使い多くの周辺情報を集めて利用していた。
忍びではないが、忍びに近い役割をさせ情報を集めていたのだ。
「小寺殿はどうするつもりなのだ」
黒田職隆の現在の主である
小寺家は赤松家の分家にあたるため、いままで赤松家を支え戦い続けて多くの死者を出していた。
小寺則職が当主となった頃からそんな生き様に嫌気がさしたのか、赤松家とは距離を取るようになっていた。
「本心では、守護である赤松様に従いたくは無いと見ています」
「何だと、小寺家は赤松家の分家。それなのに反意があるというのか」
「ですが、自らが完全に優位に立つまでは、決して本心を見せぬとも思います。距離をとりながら付かず離れずのまま様子を見るつもりかと」
「それを将軍様が許してくれるか」
「日和見的な立ち位置では、かなり厳しい条件を突きつけられると思います。場合によってはそのまま討伐される恐れもあります」
「そうだろうな」
「しかし、時間はあまり残されておりません」
「東播磨の掌握を終えたらすぐにでもこちらに向かってくるだろう」
「東からだけではなく、北からも軍勢が」
「北だと、山名か」
「但馬国は将軍家によりほぼ制圧され、山名家以外の但馬国衆は将軍家に従っております。丹波を預かる細川元常殿が丹羽と但馬国衆合わせて1万5千を率いてこちらに向かっております」
「何だと」
「さらに守護である赤松晴政様も戦支度を終えたとの話が伝わってきました。早々に将軍家に従うと伝えねば、我らは危ういことになります」
「このままでは問答無用で袋叩きということか」
「はい、間違いなく。赤松様はこの機会に敵対していた播磨国衆を丸ごと叩くと思います。可能なら備前の浦上も叩く腹づもりかもしれません」
「ならば我らは急がねばならんな」
「我らは先に、将軍足利義藤様と守護赤松晴政様に恭順の使者を出しましょう」
「分かった。さっそく我らの使者を出そう」
明石家、黒田家から恭順の使者が将軍足利義藤と守護赤松晴政のもとに送られた。
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