第45話 播磨国平定(4)

意気揚々と三木城を出たはずの別所就治とその軍勢は、日の出の頃に自領に戻ってきた。

帰ってきた別所就治と共に戻れたのは半分にも満たない軍勢。

多くのもの達は何らかの手傷を負っていて足取りは重かった。

皆黙り込み顔には鎮痛な表情のまま。

「殿。間も無く三木城でございます」

「そうか」

短く一言発してまた無言となった。

日の出直後の朝靄の中を黙々と進む。

しばらくすると別所就治の軍勢は、三木城に到着した。

しかし、三木城の城門は固く閉ざされ開こうとしなかった。

「どうした。なぜ、門が開かんのだ。門を開けよさせよ。見張りや門番は寝ているのか」

「承知しました。見張りが寝ているのかもしれません。すぐに開けさせます。開門、門を開けよ。就治様が戻られた。開門せよ。聞こえないのか門を開けろ!」

別所就治らは大声で開門をさせようとするが門は開かない。

「殿。あれを、城に掲げられている旗印をご覧ください」

家臣達が三木城に掲げられている旗印が違うことに気がつき、風にはためいている旗印を指差す。

そこには、2匹の龍が天に昇る姿を表す‘’丸に二つ引き両門‘’の旗印。

足利将軍家の旗印であった。

その瞬間、三木城から別所就治らの軍勢の手前に火縄銃による一斉射撃が加えられる。

立ち上る土煙。

「火縄銃による攻撃だと、馬鹿な、我らの城が・・いつの間に奪われたのだ」

自らの居城が奪われたことに呆然とする別所就治は、思わず城に向かって歩き出す。

「殿。お待ちください。前に進めば火縄銃の餌食となります」

別所家の家臣達が別所就治を必死に止める。

「離せ、離さんか。儂の城が・・・」

「殿。背後から幕府軍がやって来ます」

慌てて振り向くと遠方に足利将軍家の旗印と三好家の旗印が見えている。

その軍勢の最前列では足軽達が火縄銃を構え、火縄銃の銃口は別所勢に向けられている。

「前後を挟まれた」

「殿をお守りしろ」

慌てる家臣達の中で別所就治は城に行こうとするが家臣達が必死に止めていた。

そんな別所勢に幕府軍から一人の武者が馬に乗り向かってきた。

別所勢が緊張感に包まれた。

その武者は別所勢の1町(約109m)手前で立ち止まり、大きな声で口上を述べた。

「足利将軍・足利義藤様の直臣、細川藤孝である。別所就治に上様からのお言葉を申し渡す。心して聞くがいい。妻子は無事である。これ以上の戦は無用。武家であるならば武家の頭領である将軍家にすみやかに従うべきである。これ以上戦うならば、将軍に対する逆賊幕府御敵として残らず殲滅する。半刻(1時間)の猶予を与える。従うか・殲滅されるか決めるがいい」

細川藤孝は、幕府の軍勢の中に戻って行った。

別所就治は地面に座り込んでしまう。

「夜襲を待ち伏せされ、城は奪われ、さらに前後を敵に挟まれ、手勢は半分以下になり皆手傷を負っている。最早戦にならん」

「殿。そのようなことは」

「よい。これ以上無理を通そうとすれば皆死ぬことになる。上様に従おう」

別所就治は幕府に降伏することを決めるのであった。


ーーーーー


三木城の一室で将軍足利義藤の前に別所就治はいた。

周囲には細川藤孝・三好長慶ら幕府重臣がいる。

別所就治は自らの扱いに戸惑っていた。

「上様。これは一体・・」

「腹が減っているであろう。まずは皆で朝餉を食おう。お主の家臣達にも振る舞っているぞ」

目の前には、塩にぎりめしと味噌汁・漬物が置かれている。

「私は敵対した相手ですぞ」

「まずは食え。ああ・それと毒は入っていないし、三木城の兵糧は手をつけてないぞ。この朝餉の材料は我らの兵糧から出している」

「で・ですが・・」

「冷めてしまうぞ。まずは食え」

将軍足利義藤達は朝餉を食べ始める。

仕方なく別所就治も朝餉を食べ始めた。

味噌汁の温かさが沁みてくてなぜかホッとする。

手にした塩にぎりめしを口に運ぶ。

変わり映えの無いただの塩にぎりめしを食べているとなぜが涙が流れてきた。

皆が何も言わずに黙々と食べていた。

食べ終わると膳が下げられる。

「さて、腹も膨れたであろうから話をするか」

将軍足利義藤の言葉に別所就治は緊張する。

切腹か打首であろうと考えていた。

ならば、妻子と家臣達の助命をしなくてはと心に決めていた。

「お主達はこれから播磨国守護である赤松晴政をしっかりと支えよ」

「えっ・・切腹か打首ではないのですか」

「誰がそんな事を言った。藤孝の呼びかけは、従うか殲滅されるか選べとしか言っていないはずだ。違うか」

「で・ですが、上様に刃を向けたのは事実にございます」

「儂に従う以上は命は取らん。だが、そんなに死にたいなら儂は止めんぞ」

「そ・それは」

「別所就治。儂の大望に手をかせ。赤松晴政を支え、儂の大望を成就させるために働け」

「上様の大望ですか」

「そうだ」

「大望とは一体なんでしょう」

「この乱世の世を終わらせ、戦さの無い世の中にすることだ」

「戦さの無い世の中ですか・・ですがこの日本中の大名達が、日本中の国衆が戦を止めるなど考えられません」

「好き勝手に欲望の赴くままに戦をする連中だ。口で止めろと言って止めるはずは無いな」

「ならば、どうやって」

「口で分からぬなら、力で示すしかなかろう」

「力ですか・・」

「儂は日本を平定し直すつもりだ。もしかしたら儂は志半ばで倒れるかもしれん。だが、誰かがやらねば永遠に乱世の世のままだ。ならば、その役割は将軍である儂がやらねばならんだろう。武家の頭領であり、征夷大将軍である儂以外にいない。違うか」

「戦に明け暮れるこの日本を平定し直すなどと、本気でございますか」

「本気だ。別所就治。腹を切るなら、30年後にしろ。それまでその命を儂に預けろ。儂とともに日本を平定するために修羅の道を共に行こうぞ」

別所就治の目から自然と涙が溢れる。

「承知いたしました。この別所就治。上様の行く修羅の道、お供させていただきたく存じます」

「そくぞ申した。今からお主は我らと共に志を同じくする同士だ。お主の働きに期待するぞ」

「この時より、お仕えいたします」

将軍足利義藤の陣営に別所就治が加わることになった。

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