第47話  播磨国平定(6)

東播磨を平定した将軍足利義藤は、進軍の準備ができ、直ちに軍勢を西に向けて進軍を開始した。

将軍足利義藤は、今回小寺政職の小寺家を潰すか完全に弱体化させてしまい、無害な存在にすることを考えていた。

生まれ変わる前、小寺政職こでらまさもとが赤松晴政の嫡男赤松義祐あかまつよしすけを神輿として担ぎ上げ下剋上を起こしていたからだ。

下剋上のあと播磨の情勢はますます混沌としていくことになった。

嫡男義祐は現在まだ10歳ほどであるが、歴史通りならあと10年ほどしたらそのようになってしまう。

ならば、今のうちにその元凶である小寺政職を、最低でも弱体化させておけば防げると考えていた。

今後西国平定には播磨国の中心にある姫路は重要であると考えていた。

良い湊もあり、陸と海の要衝でもある。ここに幕府の権威を示すような城を作る必要があると考えていた。

「上様」

「藤孝。どうした」

「小寺家家老で姫路城城代・黒田職隆くろだもとたかと枝吉城主・明石正風の両名が御目通りを願っております」

「小寺家の家老か・・動きが早いな」

「如何いたします」

「仕方ない会おう」

小寺側の想定よりも早い動きに少し渋い表情をする。

近習の者達が会談のための急ぎ準備を始めた。

急遽仮の本陣を作り会談の場所を作る。

将軍足利義藤は床几に座り、その左右を近習達がかためるように座っていた。

そんな将軍足利義藤の前に二人の人物がやってきた。

一人はまだ20歳前後であろうか、もう一人は少し白髪が目立つようになってきている。

若い方の人物が口を開く。

「御目通り願い恐悦に存じます。姫路城城代として城を預かります黒田職隆と申します。隣におりますは枝吉城主・明石正風殿にございます」

「枝吉城主・明石正風と申します」

「儂が将軍足利義藤である。それで両名は何のためにここに来た」

「我ら両名は将軍家と播磨守護である赤松晴政様と争うつもりはございません」

「ほぉ〜、争うつもりはないと言うか」

「はい」

「2人は儂と赤松晴政と争うつもりはないと言っているが、それは具体的に何を意味するのだ。単に戦う気がないのか、生涯忠節を誓うのか、答えよ。敵として戦うのか、生涯味方として戦うのか、どっちだ。曖昧な返事は敵とみなして残らず討伐する。心して返答せよ」

「・・・・・」

曖昧な返答を認めない将軍足利義藤の姿勢に一瞬返答に詰まる。

「答えよ」

「忠節を・・お誓いいたします」

「同じく」

「儂と守護赤松晴政に忠節を誓うのだな」

「「はい」」

「もし、裏切るようなら子々孫々に至るまで朝敵及び幕府御敵となることを肝に銘じておけ」

「「承知いたしました」」

黒田職隆と明石正風の額に薄らと汗が浮かんでいた。

「2人は我らと戦わぬと聞いたが、小寺家は別ということかな。2人に聞こう。小寺家はどう動くつもりでいる」

「小寺政職様には、まだ東播磨の詳細を報告しておりません。これより直ちに御着城に赴いて説得いたします」

「いまだに詳細を報告していないのか。なら、そのまま何もするな」

「何もするなとはいったい・・」

黒田職隆は将軍足利義藤の言葉に驚く。

「ならば、小寺政職に詳細を報告せずに先に儂のところに来たのは何故だ」

「ま・まずは上様の御存念をお聞きしてと考え」

「心にもないことを申すな」

「そのような事は」

「どうせ、我ら・小寺・尼子・毛利を天秤にかけていたのであろう。生き残るために天秤にかけることは悪いとは言わん。だが、そのようなことばかりしていると、武家として大切な信義を失うことになるぞ。今後儂を天秤にかけるようなことがあれば、次は容赦はせぬぞ」

「承知いたしました」

「ならば、聞こう。お主から見て小寺政職はどのような人物だ」

「守護である赤松長政様とは付かず離れず。可能なら備前国守護代浦上家や東播磨の別所の如き力を得て、可能ならば播磨国をその手に掴みたいと考えておられるかと」

「なるほど。まあ、そうであろうな」

「如何いたします」

「小寺家に何も報告を上げるな。どのみち小寺政職などという心に下剋上の野心を秘めた奴を放置しておけば将来の災いになる。少なくとも所領を大幅に削り力を半減させる」

「本気でございますか」

「本気だ。黒田職隆は今日から小寺家に仕えるのではなく、明石正風とともに赤松晴政に直接仕えよ」

「承知いたしました」


ーーーーー


御着城で小寺政職はイラついていた。

東播磨に三好勢が現れたとの報告が入り、急遽物見に出した家臣達が誰1人戻ってきていない。

姫路城代の黒田職隆に伝令を出したがその家臣も帰ってきていない。

「一体何が起きているのだ」

そこに父である小寺則職こでらのりもとが入ってきた。

「父上」

「状況は掴めたか」

「いえ、物見に出したもの達は1人も帰ってきません。姫路城に出した伝令も戻って参りません」

「これは不味いかもしれんぞ」

「不味いとは」

「物見や伝令が全て始末されたと考えるべきだ」

「かなりの人数ですよ」

「何人だ」

「30人になります」

「30人か・・確かにかなりの人数だな。だが、それが誰1人帰ってこないのだ。始末されたと考えるべきだ」

「三好にそれほどの力があると」

「噂では、上様・・将軍家が出てきていると言われている。三好家も今は将軍家に仕えている」

2人が話をしているところに家臣が慌てて飛び込んできた。

「一大事にございます。三好勢と将軍家の軍勢がこの御着城を取り囲んでおります」

「「なんだと」」

「城を取り囲む軍勢はおよそ3万」

「やられた。儂らの目と耳を塞いでいたのは、三好か将軍家であろう」

小寺則職は思わず呟いた。

「父上。何の為に」

「将軍家は赤松晴政を支持している。我らは赤松家にそれほど協力的では無いことを咎めるためか、それとも隠してきた野心を知られたのかもしれん」

「如何します」

「門の備えを厳重にせよ」

「承知しました」

家臣は指示を受け部屋から出ていった。

「まだ半月は余裕があると見ていたが、読みが浅かった」

小寺則職の呟きは部屋に響いていくのであった。

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