第43話 播磨国平定(2)
摂津国から播磨国に入ると東播磨は別所氏の支配地となっていた。
播磨国守護である赤松家の衰退に伴い、別所氏が徐々に周辺の国衆を飲み込み勢力を拡大して、東播磨一帯を支配するまでになっていた。
別所氏の居城三木城は、平野部の丘陵地帯を利用して作られた平山城。
羽柴秀吉による三木の干殺しと呼ばれた激しい兵糧攻めが起きた城でもある。
東播磨を支配し、播磨守護赤松家から事実上独立して戦国大名となった
「三好勢2万と将軍家の旗印を掲げる軍勢1万。合わせて3万の軍勢が摂津国との国境を越え、東播磨に入りました」
「将軍家の旗印を掲げた軍勢だと」
「はっ。掲げられているのは、2匹の龍が天に昇る姿を表す‘’丸に二つ引き両門‘’でございますから間違いございません」
「将軍家の旗印の軍勢の大将は誰だ。細川か」
「それが・・」
「どうした。誰だ」
「将軍足利義藤様自らのご出馬と思われます」
「将軍自らだと、そんな事があるか。本当に将軍家の旗印なのか」
「足利将軍家に間違いないかと思われます。遠くからでございましたが、童と思われるものが甲冑を身につけ軍勢の中心で馬に乗っておりました。その方が将軍様かと」
別所就治は思わず渋い表情になる。
「三好殿だけなら知らぬ仲では無いから、話が通じる可能性があったが、将軍も居られるなら我らの希望は通らぬ可能性があるな。チッ・面倒なことだ」
「将軍様の軍勢は大量の火縄銃を持っているようでございます」
「あんな高価な物を大量にだと。しかも、あれは一度使えばすぐには使えぬ」
「ですが畿内の戦いでは、火縄銃が大変な威力を見せたと聞いております」
「噂は当てにならぬものだ。派手な音を立てるわりに一度使えばすぐに使えぬ、その隙に攻め込まれてしまう。しかも、恐ろしいほどに高価でしかも火薬まで高価。あんな銭食い虫のようなものは使えん。所詮、上部だけだ。京の兵は弱兵。戦になれば逃げ回ることになるだろう。心配する必要はあるまい」
そこに別の家臣が慌てて入ってきた。
「殿。三好長慶殿の重臣・篠原長政殿が将軍家の使者として参りました。如何いたしますか」
「何だと、将軍家からの使者だと」
「はっ、間違いございません」
「分かった。ここに通せ」
暫くすると別所氏の家臣に案内され、将軍家の使者として篠原長政が入って来た。
篠原長政は、別所就治の正面に座った。
「別所就治である」
「将軍足利義藤様から使者を命じられました三好家の篠原長政と申します」
「此度の播磨国への軍勢は如何なる理由か」
「上様は乱世の世を安寧の世にしたいとお考えです」
「それが此度の軍勢と我らに何の関係がある」
「播磨国は乱れに乱れ、まさに乱世の世そのものであると上様は嘆いておられます」
播磨国は度重なる尼子氏の侵攻もあり、守護赤松氏の権威が著しく低下。
それぞれの国衆が独立状態となり、乱世の世の縮図のような有様となっていた。
「我らのことは我らで決める。播磨国に将軍家が口出しするべきものでは無いだろう」
「播磨国守護は上様により任命された者。上様が任命した守護を播磨国衆が蔑ろにするということは、将軍家に弓引くと同じでございましょう。全ての武士は、武家の頭領である足利将軍家に従うべきでございましょう」
「何が言いたい」
「上様は、全ての播磨国衆は上様が任命した播磨国守護である赤松晴政に、従うべきであると言われております」
「何を言われているか分からんな。我らは守護赤松様をしっかりと補佐しておるぞ。尼子の侵攻にも我らは勇敢に戦った」
「自らの領地を守るために戦っただけであろう。それが、赤松晴政殿に従っていると言われるのか」
「そうだ。当たり前であろう」
「ならば、その証を示すべきでございましょう」
「証だと」
「上様からの御沙汰をお伝えしましょう。別所就治殿の妻子を播磨国守護である赤松晴政殿の下に差し出し、三木城を別所氏自らの手で火をかけ、三木城を破却せよとの仰せにございます」
「な・何だと。何を馬鹿なことを言っている。そんな話が飲めるか。この三木城は我らのものだ。将軍家に口出しされるいわれは無い。赤松に人質なんぞ出せるか」
別所就治は顔を真っ赤にして怒りの形相である。
だが、篠原長政は涼しい表情である。
「飲める飲めないの話では無く、武家の頭領である将軍足利義藤様に従うか従わぬかの話」
「そんな話に従うはずがあるか・・・うせろ!」
「上様に弓引くと言う訳ですな」
「この三木城は備えが堅固だ。攻め落とすことは不可能だ」
「やれやれ、お主は上様の事を分かっておらんな」
「何を言っているのだ」
「上様は細川晴元との戦いにおいて、細川晴元を討つためだけに山を一つ丸ごと燃やし尽くしたのだぞ。我ら三好勢の前で山が丸ごと燃え尽きたのだ。その恐ろしさは戦わねば分からぬか。上様は戦う相手に容赦せぬお方。三日待とう。返答がなければ討伐されることを覚悟されよ」
「この三木城は堅固な城だ。貴様らに落とせるものか」
篠原長政は、その声を無視して三木城を後にした。
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