第42話 播磨国平定(1)
播磨国置塩城主である赤松晴政のもとに一人の男が訪れていた。
三好長慶の指示で三好家の宿老である篠原長政であった。
「赤松様。お久ぶりでございます」
「篠原殿。久しぶりだな」
赤松晴政は、細川晴元の指示で三好長慶に助けられた事があった。
天文6年に尼子晴久の播磨侵攻を受け、国衆である宇野村瀬・小寺則職・明石正風らが播磨国守護である赤松晴政を裏切った。
そのため、赤松晴政は淡路に逃亡する事態になった。
阿波国で細川晴元・三好長慶らの手助けを受けて、天文8年に播磨に戻る事ができたが、守護としての権威の低下を止める事ができず、その結果有力国衆がほぼ独立状態となっていた。
「大分、お疲れのように見えます。お体は大丈夫でございますか」
「播磨国衆と尼子晴久の対応に苦慮しておる。播磨守護でありながらその役目を果たす事ができず、上様には申し訳なく思っている。何事もままならぬものよ。上様と歳も変わらぬ倅の道祖松丸は、何かと儂に意見してきて素直な話もできん。それに歳のせいかすっかり白髪も増えてしまった」
赤松晴政は思わず苦笑いを浮かべる。
この広間ではすでに人払いされており、広間には赤松晴政が最も頼りとする娘婿である赤松政秀だけが同席していた。
篠原長政は将軍足利義藤からの書状と、主である三好長慶からの書状を赤松晴政に差し出した。
「上様からお預かりした書状と我が主である三好長慶様からの書状になります」
「拝見させてもらおう」
赤松晴政は2通の書状に目を通していく。
「上様のご指示で三好殿が我らに味方して播磨を平定するとあるが本当なのか」
「上様は本気でございます」
「将軍家が力を取り戻したと噂に聞くが」
「上様が細川京兆家を打倒したのはご存知ですな」
「聞いているが今でも信じられぬ。あの細川京兆家を上様が打倒したとは」
「細川京兆家の所領のうち、山城国・丹波国・摂津国を直轄領に、讃岐国は我が三好家に与えられ、土佐は長宗我部に攻略を命じております。この他に但馬国の8割の国衆を従え、畿内においては本願寺を従えております」
「本願寺までもか」
「他にも、法華宗と延暦寺の戦いを仲裁され、事実上支配下に組み込みました。さらに、周辺では、若狭国武田家、越前国朝倉家、近江国六角家がすでに将軍家に忠節を誓っており、今の将軍家は以前とは違います」
「権威に見合う力を取り戻したということか」
「上様は乱れ切った乱世の世を平定すると言われております。そのために、着々と準備を進めておられます」
「天下を平定されるか・・国衆の扱いに苦慮する儂は、上様のお役に立てるのだろうか」
「上様も大御所様も赤松様を心配されております」
「大御所様にまで心配をかけて申し訳ない」
大御所である第12代将軍足利義晴は、子供の頃は播磨国で赤松晴政の父である赤松義村のもとで育てられ、実子である晴政と共に愛情深く育てられた事を今でも感謝していた。
「播磨平定に関しては、我ら三好勢2万。播磨北部の方からは但馬と丹羽勢1万。さらに上様の指示で龍騎衆1万が加わります」
「龍騎衆とは」
「上様直属の近衛軍のような存在で上様の常備軍とお考えください」
「上様の直属の軍勢ですか」
「常備軍で現在、2万ほどおります」
「常備軍と言われますが、農民はいるのですか」
「農民はおりませぬ。上様を守り、上様の指示で戦うことだけを目的に組織されておりますから、田畑に縛られる農民では務まりませぬ。そのため、常に戦うための鍛錬を積み重ねている者達でございます」
「それほどの軍勢を差し向けていただけるとは」
「間も無く播磨に軍勢が入ります。赤松殿も戦の準備を」
「戦支度は承知した。上様にはこの赤松晴政。終生お仕えいたしますとお伝えくだされ」
「上様には、しかとお伝えいたしましょう」
ーーーーー
摂津国越水城
播磨国平定のための軍勢である2万が集結。
そんな越水城に龍騎衆1万が到着が到着をしたところであった
三好長慶は、重臣である篠原長政の報告に思わずため息をついてしまった。
「殿。ため息をついておりますと運が逃げていきますぞ」
「だがな・・長政」
「諦めるしかありません」
「簡単に言ってくれる。万が一があったらどうするのだ」
「殿が率いる三好勢に、万が一があると言われるのでしょうか」
「そんなことは無い。そんなことは無いが」
「来てしまったのです。諦めるしかありませぬ」
「上様が軍勢に加わるなど聞いておらんぞ」
「私も聞いておりません。つい先程知りました」
そんな言い合いをしている三好長慶のところに将軍足利義藤と細川藤孝がやって来た。
「長慶殿。遅くなった」
「これは上様。わざわざ越水城までおいでいただくとは思いませんでした」
「軍勢も揃った。さっそく軍議を行うぞ」
「上様。まさか本気で播磨国まで行かれるおつもりですか」
「当然であろう。何のためにここまで来たと思っている」
三好長慶は、思わず細川藤孝を見る。
視線に気がついた細川藤孝が視線を逸らしながら気まずそうに口を開く。
「すまない、長慶殿。上様の播磨国への出陣。儂もどうにかしておやめいただこうとしたのだが、聞き入れてもらえず。このような次第となった」
「我らが負けるとは思わんが、千に一つ、万に一つの事態が起こるのが戦。危険すぎる」
そんな二人のやり取りを笑顔で見ていた将軍足利義藤。
「この義藤が播磨国に行く事は決定事項である。帰るつもりは無いぞ」
「ハァ〜・・分かりました。ですが、最前線だけはおやめください。上様は後方でドンと構えていてください。それで皆の士気が上がります」
「う〜ん・・・」
少し渋る将軍足利義藤に細川藤孝が声をかけた。
「上様。播磨国平定を三好長慶殿に任せたのは上様です。これ以上のことは三好長慶殿にお任せして、三好殿を困らせぬようになさいませ」
「分かった。分かった。後方で控えていることにする。心配するな」
この場にいる者達は、将軍足利義藤の言葉に少し安堵した。
だが、昔から仕えている細川藤孝だけは、絶対に目を離すことはできないなと思っているのであった。
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