第41話 次なる一手

天文17年2月下旬

将軍足利義藤は,自ら歴史を大きく変えてしまってきているためか,その余波を受けて周辺の守護大名やそれぞれの領国においても,歴史が変わり始めていることを感じていた。

生まれ変わる前と比べれば,当然ではあるが将軍家の状況そのものが大きく違っている。

直轄領を手に入れ,銭を稼ぐ手段を手に入れ,多くの忍びを雇い,銀山を手に入れ,将軍自らの近衛軍とも言える龍騎衆を組織できた。

龍騎衆は,増員を続けてきていて軍事訓練もさせている。

将軍直属でかなりの力を持つことができた。

これで,無駄に各大名の事を気にする必要が減ることになる。

将軍足利義藤は、近習や幕臣を集めていた。

「上様。龍騎衆も2万ほどになり戦力も整ってまりましたな。これで,畿内の国衆を加えれば相当な戦力となりす」

細川藤孝が中心となって龍騎衆を取りまとめていた。

「藤孝。龍騎衆にはもっと地力を付けてもらわねばならん」

「承知しております。碌に刀も使ったこともないもの達もおります。しっかり鍛え上げて使えるようにいたします」

「手が足りなければ吉岡一門も使って構わん」

足利将軍家剣術指南は、京流の一つでもある吉岡流が代々勤めている。

しかし、足利義藤は吉岡流ではなく剣聖との呼び声の高い塚原卜伝の鹿嶋新當流かしましんとうりゅうを学んでいた。

「承知いたしました」

「龍騎衆は引き続き集めよ。最低でも3万以上にするつもりだ。今のうちにしっかりと忠誠心と勇猛心を植え付けておかねばならんぞ」

「火縄銃の扱いは如何いたしますか」

「1年以上経過したもの達から火縄銃を使わせよ。ただし、紛失せぬように火縄銃の管理は厳重にせよ」

「承知いたしました」

突如、甲賀衆の和田惟政が入ってきた。

「上様」

「和田惟政か、如何した」

「はっ、急ぎお伝えすることがございます」

「話を聞こう」

「美濃国守護代斎藤利政の娘・帰蝶。尾張国織田信秀の嫡男・信長への輿入れが早まり、数日前に輿入れしたそうでございます」

「聞いていた話よりも1年も早いぞ」

尾張国織田信秀の嫡男である織田信長の下へ斎藤利政の娘の輿入れは、来年の天文18年と記憶していた。動きが早くなってきている。やはり覚えている出来事との齟齬が出てきている。

覚えている歴史が、あてにならないかもしれないことを、考えておく必要があると思い始めていた。

「当初は昨年話がまとまり、実際の輿入れは来年の2月でございましたが、突如今月に輿入れとなったそうでございます」

「理由は分かるか」

「どうやら、上様の美濃国に対する調略に感づき始めているようです」

「感づいたのか」

「はっきりと分かった訳ではないようですが、西美濃三人衆は、斎藤利政に対して煮え切らないのらりくらりとした態度を続けています。自分にはっきりと従わないことから何らかの調略を疑っているようです」

「なるほどな、調略の手が伸びている可能性を考え、万が一に備えて美濃国と尾張国の結び付きを強め国境をより一層安定させておく考えという訳だな」

和田惟政の報告を聞きながら扇子を何度か開いたり閉じたりを繰り返す。

「ならば、美濃国衆の切り崩しを本格化させるか。定頼」

将軍足利義藤は、六角定頼の名を呼ぶ。

「はっ」

「西美濃三人衆を動かし、美濃国衆への調略を本格化させよ」

「承知いたしました」

「三好長慶!」

「はっ」

将軍足利義藤は、三好長慶を呼んでいた。

「讃岐国制圧ご苦労であった」

「上様のお役に立てて嬉しく思います」

「褒美として、讃岐国守護を任せる」

「ありがたき幸せ、四国の残りは如何いたします」

「四国の残りの土佐に関しては長宗我部を使う。長慶には、新たな仕事をしてもらいたい」

「どのようなことでしょう」

「播磨国を討伐せよ。播磨守護である赤松晴政はお主と親しいが、赤松晴政では播磨・美作・備前を抑えることが事実上不可能になっている。現在、浦上・別所など有力国衆が好き勝手にしている。このまま放置していけば、尼子の更なる介入によりこの先ますます権威を落とし、力を落としていくだけになる。守護赤松晴政を支援して、敵対勢力を一掃して播磨国に秩序をもたらせ」

「承知いたしました。播磨国はこの三好長慶にお任せください」

「期待しているぞ」


ーーーーー


美濃国稲葉山城

美濃国守護代斎藤利政(道三)は、不機嫌そうな顔をしている。

「光安。まだ分からんのか」

明智光安に対して不満を口にする。

「調べておりますが、西美濃三人衆である安藤・稲葉・桑原の背後に誰がいるのかがまだはっきりしておりません」

「奴ら最近しきりと周辺の国衆に会っていると聞いているぞ」

「可能性が高いとしたら六角」

「六角・・あり得るな」

「六角の重臣である蒲生定秀を美濃国内で見たとの話もございます」

「六角義賢か、あの若造が」

「いえ、このような手立てを行うとしたら、六角定頼」

斎藤利政が眉間に皺を寄せる。

「六角定頼・・・言われてみれば、確かにあの倅ではこのような真似はできんな。だが、六角定頼は、将軍家へ人質同然の扱いで京の街にいると聞いているぞ」

「それが、どうやら違うようです」

「違うだと」

「六角家の実権は今でも六角定頼が握っており、六角定頼は将軍足利義藤様の下で軍師のような役割を担っているようです」

「上様の懐刀というわけか」

「細川晴元・細川京兆家を鮮やかに打ち倒し、将軍家が畿内の覇権を取り返した手腕を見て惚れ込んだとの噂がございます」

「チッ・面倒なことを、最悪の場合将軍家を相手にしなければならんぞ。何としても介入の大義名分を与えぬようにしなければならんな。光安。国衆に引き締めをかけよ。調略を叩きつぶせ」

「少々強引な手でもよろしいですかな」

「強引な手立てで良い。抑え切れれば問題無い」

「承知いたしました」

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