第29話 富貴
細川元常が山名家の反撃を封じて生野銀山を完全に制圧。
生野銀山が将軍家直轄領となった。
生野銀山ばかりでは無く、但馬国の垣屋氏と八木氏が幕府側に付くことになり、但馬国の半数近い国衆が将軍家に忠節を誓うことを申し入れてきている。
細川元常は太田垣輝延救援と生野銀山制圧を終えると、生野銀山の守りのための兵力を生野銀山に残し、此隅山城攻略はせずにあえて放置して京に戻っていた。
此隅山城を攻めるには準備不足の面もあり、この度の但馬への軍勢は、太田垣氏の救援と生野銀山確保であったからでもある。
しかし、火縄銃を使った細川元常率いる幕府軍の圧倒的な強さ。
それを目の当たりにした但馬国国衆には、その強さはかなり強烈な恐怖を与えたようで、多くの国衆が山名家ではなく将軍家に忠節を誓うことを表明して、但馬国における幕府の力を誇示することとなり、それに伴い山名祐豊の地位が大きく低下していく結果となっていた。
将軍足利義藤は、将軍家御所である室町第に近習の者達を集めていた。
「元常。ご苦労であった。元常の奮闘で太田垣殿も助かり、生野銀山も将軍家のものとなった。元常の働きは賞賛に値する」
将軍足利義藤は、細川元常に労いの言葉をかける。
「勿体無いお言葉。上様に仕えるものとして当然のことでございます」
「元常。戻ってきたところですまんが、丹羽から生野銀山への街道の整備に入ってもらいたい。不測の事態に素早く生野銀山に軍勢を送り込む必要がある。また、生野銀山で産出した銀を安全に運ぶ必要がある」
「はっ、街道整備の件、承知いたしました。大至急街道整備に着手いたします」
「街道が整備されれば生野銀山の安定に大いに役立つこととなる」
生野銀山には3千の軍勢を常駐させ、さらに幕府の代官を送り込んでいた。
同時に最新の鉱山の採掘・銀の精錬技術を導入するための手配をして、採掘量を増やすための準備もしている。
「藤孝。最新の採掘・精錬技術の導入に関してはどうなっている」
「既に最新の採掘・精錬技術は堺の納屋に命じて導入の手筈を整えていたところです。納屋からの話ですと、出雲の石見銀山に導入された採掘・精錬技術を生野銀山にも導入できるようにしており、今月中には目処が立つと申しております」
「分かった。それでいい。最新の採掘・精錬技術が手に入りしだい生野銀山に導入する」
「承知しました」
足利義藤は、金山も欲しいが近隣に金山は存在していないため、銀を中心にした銭の仕組みでいくことにした。
「いよいよ銀を使った銀銭を幕府で作る」
近習一同が緊張した面持ちになる。
「いよいよでございますか」
六角定頼が嬉しそうな顔をする。
「色々と想定外のことも多かったが、結果として良かった。このまま一気にことを進める」
「銀銭の名はいかがいたします」
「‘’
「どの様な意味でございますか」
「財と高い地位があり、幸福と恵みが天から与えられるという意味だ。儂としてはこの日本の国隅々まで天の恵みが沢山行き渡るようにしたいとの願いをこめたものだ」
「良き名でございます。必ずや上様の願いを天が聞き入れ、この日本の隅々に天の恵みが行き渡る事でしょう」
「銀の含まれる量にもよるが分かりやすくするため、銀大銭1枚1両で1貫文。銀小銭1枚1分で銀大銭の1割の価値としたい。具体的な詰めは銀銭を作るための座として、銀座を作りそこで詰めていくことにする」
「銅銭は如何いたします」
「銅銭は銀銭の発行が軌道に乗ったら取り掛かる」
「承知いたしました」
将軍足利義藤は一同を見渡す。
「さらに新たなことを始めるつもりだ」
「新たなこととは一体」
細川藤孝が不思議そうな顔をする。
「塩だ」
「塩?」
この場にいるもの達が皆不思議そうな顔をする。
「この畿内においては、塩の製作と販売は幕府直轄もしくは幕府の許可を受けた者のみとする。許可を受けたたものに関しては、扱い量に応じて一定額を税として幕府に収めさせることにする。だが、基本幕府が直接塩の流れを管理して、幕府専売品の扱いとする。できるだけ他の者に塩を渡さぬようにするぞ」
「なぜ、塩なのです」
「塩は人の生活に必要だからだ。平和になり生活が安定すれば塩の消費は増えていく。今のうちから塩の利権を幕府で押さえていく。味噌・醤油・漬物など塩を必要とする物は多い。まずは、摂津国に大規模な塩田を作り塩の流通を管理していく」
「摂津国ですか」
「本来なら摂津国を幕府管理下の巨大な商都として、堺に代わる新しい交易港を含めて開発したい。だが、摂津には一揆を扇動する本願寺がいる。本願寺という危険極まり無い火種がすぐ近くにある限り、それは危険すぎて商都の開発はできない」
「なるほど、そのためにまずは塩田なのですね」
「塩田開発を名目に大規模な開発をして本願寺を切りくずし、同時に内部分裂を誘い力を大幅に弱めるつもりだ。既に門跡のことでいくつもの派閥が出来上がり内部で論争が起きている。あと少し手を加えてやれば内部で戦いが始まるだろう」
「塩田は目眩しですか」
「しっかりと塩田は開発するぞ。大事な幕府専売品を作らねばならん。だが、塩田なら壊されても痛くも無いだろう。すぐに直せる」
「確かに塩田ならば壊されても被害は少なくて済みます」
「塩田管理の名目で大きな砦を本願寺近くにいくつか作ることにする」
「それは本願寺を刺激するのではありませんか」
「名目は、塩田開発と塩田管理のための幕府の建物だ。そこを一方的に攻めてきたら朝敵・幕府御敵になるな。当然、幕府の建物を攻めてきたら名目上であっても軍勢の総大将は、朝敵となることだろう。たとえ、どんなに偉くともな」
足利義藤は不敵な笑みを見せる。
「目の前に餌をぶら下げるのですな」
「藤孝。人聞きの悪いことを言うな。あくまでも塩田開発と塩田管理だ」
「そうでした。承知しました」
「それと、銀銭の発行と同時に銭雇いの兵で儂直属の軍勢を作る」
「銭雇いの兵ですか、わざわざそのようなことをせずとも我らがおります」
「お前達の力を疑っているのでは無い。皆の領地から軍勢を集めにはどうしてもある程度の時間がかかる。農民達を集めなければならんからな。だがそれでは、急を要する場合間に合わん恐れがある。だから手始めに、常に儂の周りにいることができ、指示を下せばすぐに動ける5千の軍勢を作る。軍勢を鍛える剣術の指南役には卜伝殿と弥四郎殿に既にお願いして了承を得てある」
生まれ変わる前、三好義継の謀反で御所を強襲されて、軍勢を呼び集める事もできずに死ぬことになった。
同じことを繰り返す訳にはいかない。
呼び寄せることができないなら、日頃から常に一定の軍勢が自分と共に帯同すればいいことだ。
「反対しても実行されるのでしょう」
「当然だ。繰り返して言うが、お前達の力を疑っている訳では無い」
足利義藤の答えを聞き、細川藤孝は渋々承知する。
さらに、他の近習たちも細川藤孝同様渋々同意した。
「分かりました。なら、どのような人物を選ぶのです」
「武家で後を継げない者たちが中心になるが特に定めずともやる気があればいい。ただし、将軍に対する忠誠心を植え付けていかねばならん。明国の学問でも使って忠誠心を教え込むか。せっかく銭で雇っておきながら、背後から襲われたら終生物笑いとなるからな」
「忠誠心を教え込む学問ですか・・・大徳寺の僧に聞いてみましょう」
「そうだな。何か良いものが無いが聞いてみるか」
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