第28話 竹田城と生野銀山
竹田城は山頂にあり、今朝は朝霧が山を包み城下から見える姿は、まるで白い雲に浮かんでいるかのようである。
朝霧の中に浮かぶ竹田城に朝日が当たり、空に浮かび光り輝く天空の城のようにな幻想的な姿を見せていた。
山名祐豊は昨夜夜襲を仕掛けようとしたが、霧が発生してしまい見通しが効かないため、同士討ちの恐れが高いため夜襲を中止にしていた。
山名祐豊は本陣でイラつき床几を蹴り飛ばしていた。
「クソッ・・忌々しい霧だ。この霧がなければ、昨夜夜襲を仕掛けて全て終わっていたはずだ」
恨めしそうに霧に浮かぶ竹田城を見上げながら、山名祐豊は次の手を考えていた。
太田垣側に内応者を作り、内側から崩そうとしているがなかなか応じるものが無く上手くいかない。
力攻めにも頑強に抵抗して、竹田城の備えを破ることができずにいた。
「このままでは無駄に月日を浪費してしまうな。褒美をもっと増やして、もう一度内応者を釣り上げてみるか。それとも、日を改めて新月の夜にでも夜襲を行うか」
そんな独り言を呟きながら本陣内をうろつく山名祐豊の下に、物見に出ていた家臣が息も絶え絶えになりながら飛び込んできた。
「殿。・・・一大事・・・にございます」
「何が起きた」
怪訝な表情で家臣を見ている。
「夜久野ヶ原に布陣して丹波からの軍勢を牽制していた垣屋・八木が敗北。敵は丹羽から侵入した細川元常率いる1万。垣屋・八木を蹴散らし、こちらに向かっております。このままでは背後を押さえられ、退路を失います」
「1万だと!」
「はい、しかも細川元常の軍勢は全くと言っていいほど無傷とのこと」
「無傷・・無傷とはどういうことだ。垣屋・八木は何をやっていたのだ」
「細川元常は、大量の火縄銃を用意。細川元常の火縄銃の攻撃により垣屋・八木の軍勢が崩壊。垣屋家当主である
「火縄銃だと、噂では1発撃ったらそれで終わりだと聞いているぞ。そんなものでやられたと言うのか。山名四天王などと偉そうなことをほざいておいてこの様。敵の足止めすら出来ないのか、使えぬ奴らだ。このような仕えぬ輩はそのうち潰して我が物にしてくれよう」
「ですが敵は1万の軍勢。我らの倍以上でございます」
山名祐豊は思わず唇を噛み締め拳を強く握りしめる。
「クッ・・・流石に分が悪いな。退却だ。退路を断たれる前に此隅山城に戻る。此隅山城であれば数万の敵でも持ち堪えることができるはずだ。急げ、遅れる奴はおいていくぞ」
「竹田城の囲みを解いてよろしいのですか」
「今は幕府の連中にさっさと帰ってもらうことが先だ。此隅山城に籠城していれば持ち堪えることはできる。奴らもいつまでも儂らに関わって此隅山城を取り囲んでいることはできんだろう。幕府の連中が帰ったら仕切り直して、再び太田垣を攻め潰せばいいだけだ。生野銀山が奪われたなら、奴らの主力が消えてからゆっくりと取り返せばいいだけだ。簡単な話だ」
山名祐豊の居城此隅山城は、改修を繰り返して徐々に堅固な城へと変わってきている。
そのため、籠城戦であれば細川元常の1万であっても大丈夫だと考えていたのだ。
山名祐豊らは、軍勢をまとめると急いで退却していった。
山名祐豊達が退却してから半日ほどすると、細川元常率いる1万の軍勢は竹田城の城下に到着した。
既に山名祐豊らの軍勢はいなくなっており、太田垣輝延が出迎えに出てきていた。
「竹田城城主太田垣輝延にございます。此度はお助けいただきありがとうございます」
「上様より丹羽守護代を預かる細川元常と申します。上様の命により太田垣殿をお助けに参りました。間に合ってよかった。敵の山名祐豊の軍勢は如何しました」
「今朝まで城を取り囲んでいましたが、慌てて逃げて行きました。おそらく、こちらに向かってくる細川殿の武威に恐れをなしたのでしょう」
「拙者の武威などとはとんでも無い。全ては上様の御威光の賜物」
「夜久野ヶ原の戦いは、細川殿の圧倒的な勝利とお聞きしました。垣屋・八木の軍勢をことごとく粉砕してみせたそうで、早くも噂が聞こえてきております。素晴らしき事で」
「火縄銃の力によるところが大きです。まさにこれこそ上様の先見の明であり、今の将軍家の力を示しています」
細川元常は火縄銃を手に取り太田垣に見せる。
「それが、火縄銃でございますか」
太田垣輝延は細川元常が手にしている火縄銃を見つめている。
「その通りだ。これからはこの火縄銃が戦の主役となるだろう」
「それほどでございますか」
「今までの戦の常識が完全に変わる。間違い無くだ」
「なるほど、これが上様のお力の一つでございいますか。この太田垣輝延。上様に救われましたから、本日只今より上様に忠節を尽くします」
「それは良きことだ。上様もさぞ喜ばれるであろう」
「ささやかではございますが戦勝の祝いを致したいと思います」
「待たれよ。その前にやらねばならぬ事がある」
「やらねばならぬ事とは、それは一体・・」
「山名の力の源泉とも言える生野銀山を至急押さえねばならん」
「生野銀山でございますか」
「そうだ。放っておけば他国から攻め込まれる原因ともなる。美作や播磨の者たちも狙っているであろう。至急我らで押さえ、将軍家直轄とせねばならん」
「承知いたしました。ならばここより生野銀山への道は、この太田垣輝延がご案内いたします」
「太田垣殿。よろしく頼むぞ」
「お任せください」
竹田城下に守りの兵を残して細川元常は、太田垣輝延の案内で生野銀山へと急いで向かった。
生野銀山には、元々古ぼけた城があったが、銀が出たため山名祐豊が改修したばかりの生野城があった。
山の麓には銀山を管理する館。
さらに銀山寺という寺が作られてあった。
残っていた兵は僅かであり、細川元常の軍勢を見たらすぐさま降伏して、服従の姿勢を見せた。
「残っている者達を至急集めよ」
細川元常の前に生野銀山にいる山名の国衆、鉱夫、銀山寺の僧、周辺の庄屋が集められてきた。
皆顔に不安な表情が浮かんでいる。
これから自分たちがどうなるのかを皆心配しているのである。
「よく集まってくれた。本日只今からここ生野銀山は、足利幕府第13代将軍足利義藤様の直轄領となる。上様への敵対行為は一切許さぬ。近々、生野銀山を管理する代官が上様の指示で送られくることになる。運営などの具体的なことは、代官が決まってからになる。上様に従うならば、
何も変わることは無い。何も不安に思うことはない。今まで通りに生活してくれ。鉱夫たちは銀の採掘を今まで通り実施することだ」
すると銀山寺の僧が不安を口にする。
「ここを上様の直轄領となさることは分かりました。しかし山名様が報復に出るのではありませぬか、あの山名様が黙っているとは思えません。そのようなことになれば、多くの領民が巻き込まれます」
「心配無用である。ここにはしっかりと精鋭である兵を置き、この地に住む者達を必ずを守る。不安になる必要は無い。ここ生野銀山が将軍家直轄領となった以上は、山名であろうと播磨や美作の者達であろうとここには一切手出しはさせぬ。それどころか、この先山名はここに近寄ることもできまい。将軍家直轄領となれば、今以上に大きく発展することは間違いないだろう」
細川元常は自信たっぷりに安全であることを強調し、生野銀山にいた全ての者たちに、ここ生野銀山が将軍家直轄領となったことを力強く宣言したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます