第11話 新将軍の戦略

第13代将軍足利義藤となったものの、当面の間の政は父である大御所様が中心になって行われる。

それゆえ、表立って義藤が行うことは少ない。

表立って動くことがなければ、今まで通り裏で動くことになる。

部屋の中には近習と忍びの者達がいた。

「上様」

「保長。どうした」

「九州に米相場の調査と米の売り買いで派遣したものが、2年ほど前に九州の種子島に、南蛮人によってもたらされた火縄銃の製造法を入手いたしました。それと九州の地で作られた火縄銃を二挺入手いたしました」

服部保長の配下の下忍達が長細い木箱を運び込んできた。

箱の蓋を開けると二挺の細長い火縄銃があった。

「よくやった保長。その者には後日儂から褒美をとらす」

「ありがとうございます」

義藤は大喜びで服部保長を褒め称えた。

この場にいる者達は火縄銃の意味が分からず、なぜ義藤が大喜びをしているのか分からなかった。

「上様。その火縄銃とは一体何なのですか」

菊幢丸から足利義藤と名を変えた時に、万吉から藤孝と名を変えた細川藤孝が疑問を口にする。

「南蛮人達の武器だ。これが本格的に使われるようになれば、戦のあり方が一変する。それほどのものだ」

「これがですか」

細川藤孝は不思議そうに火縄銃を見ていた。

「刀や槍・弓がろくに扱えなくとも火縄銃の数を揃えて集団で使えば、半町(1町は約109m)ほどの距離の敵を、自陣に近づけさせることもなく全滅させることもできる。火薬量を増やせば一町の距離でも可能になる」

「まさか・・・」

「鉛の玉を火薬の力で打ち出すと目にも止まらぬ速さで飛び、甲冑を突き破り敵を倒す強力な武器だ。あと数年もすれば各地に火縄銃を作る鍛冶場が増えていく。火縄銃はとても高価なものだ。作れる鍛冶場が増えていけば徐々に値段も下がるが、今なら一挺100貫文を超える」

「なんと・・このひとつが100貫文以上ですか」

あまりの高額にこの場にいる者達が驚く。

「藤孝。お前の父と養父殿に話をして、領内で密かに火縄銃の製造を始めよ。必要な資金は全て出す」

「承知いたしました」

「保長」

「はっ」

「間も無く堺の納屋から硝煙が届き始める。届きしだい火薬の製造を開始せよ」

「承知いたしました」

「それと硝煙の製造はどうなっている」

「どうにかなりそうな段階までになってきております」

「ならば、伊賀の山中にて硝煙の製造を開始せよ」

「承知いたしました」


「鵜飼孫六」

甲賀衆鵜飼孫六が前に進み出る。

「はっ」

「三好に対する動きはどうなっている」

「三好家の下男や領民から噂を撒いており、そこから重臣を経由して三好長慶に噂が流れております」

「三好長慶の動きはどうだ」

「表向きは泰然自若としておりますが、細川氏綱と手を組むことも選択肢として考えているようです。そこに細川晴元から細川氏綱討伐を命じられましたが、急ぐそぶりもなく動きはゆっくりとしています」

「ゆっくりか」

「はい、三好長慶は細川晴元に疑われているのを勘付いているようです。そのため、細川晴元対策を考えながらわざとゆっくり動いております」

「分かった。そのまま続けてくれ。和田惟政」

「はっ」

甲賀衆鵜飼孫六に代わり和田惟政が進み出る。

「細川晴元の動きはどうだ」

「周辺に配下の者を送り込んでおります。上様の烏帽子親を外されたことで、かなり怒りを露わにしていたそうでございます」

「烏帽子親如きで怒りを露わにするか、底の浅い奴よ」

「さらに、配下の者が流している三好長慶と細川氏綱が手を組むという噂を、かなり気にしており、真偽を確かめるため、三好長慶に細川氏綱討伐を命じたそうです」

「なるほど、引き続き進めてくれ」

「承知いたしました」


「細川氏綱の方はどうなっている」

「それはこの保長がご説明いたします」

伊賀衆服部保長が進み出て頭を下げる。

「頼む」

「細川氏綱は河内国で遊佐長教に匿われており河内国高屋城におります」

「高屋城か。ならば畠山家も手を貸していることになるな。三好長慶や細川晴元は知っているのか」

「まだ、知らぬようでございます。それと河内下郡代安見氏はなかなかの野心家と聞いております。条件しだいでは上手く使えるかと」

「ほぉ〜。なら、状況しだいでは使えるな。ならば、まず細川氏綱の居所を三好長慶と細川晴元に、それとなく教えてやるか」

「それでは細川氏綱が不利になり討たれませぬか」

「細川晴元が動かぬのだ。戦力的には三好長慶が少し不利だろう。こちらが状況しだいでは氏綱の管領でもいいと考えているとそれとなく伝えれば、京に兵を送り込む事は無く、三好長慶と細川晴元に全軍を振り向けるだろう」

「なるほど」

「その間に、我らの戦力を整えておく必要がある。それと偽の書状を撒くとするか」

「偽の書状ですか」

「そうだ。どの程度効果があるか分からんが、少しは疑心暗鬼を双方に与えることができるだろう。まずひとつ目の偽書状は、三好長慶と細川氏綱が連絡を取り合い手を組んで細川晴元を討つことを約束した書状。次に二つ目の偽書状は、細川晴元が三好長慶の弟たちや重臣達と三好長慶を討つための謀議の書状を作る。配下の者達で作れるか」

「お任せを、それぞれの右筆の書状や本人達の書状は、すでに手に入れてあります。真似て作成することは造作もないことです」

服部保長は自信たっぷりに答えた。

「分かった。ならば、伊賀衆と甲賀衆で偽書状を作成出来るものを集め作成し、偶然を装って相手側に渡ってしまったようにしてばら撒け」

「承知いたしました」


ーーーーー


将軍足利義藤は、近習と伊賀衆・甲賀衆らと共に近習の細川藤孝の領地に来ていた。

細川藤孝の実父の三淵晴員みつぶちはるかずと養父の細川元常ほそかわもとつねも来ている。

火縄銃の試射と威力を見せるためであった。

「お申し付けの通り的となる甲冑を用意いたしました」

見ると半町ほど先の距離に甲冑が置いてある。

「鉄を使っている甲冑か」

「はっ、お申し付けの通り表面を鉄板で覆われた甲冑にございます」

「いいだろう。火縄銃の用意をせよ」

足利義藤の指示に、火縄銃を扱える伊賀衆が火縄銃の用意を始めた。

火縄銃の銃身の先から火薬を入れ木の棒で押し固め、そこに鉛の玉を入れ再び押し固める。

火挟ひばさみについている火縄に火をつける。

皆が新しい武器に興味津々である。

「上様。用意ができました」

「やってくれ」

伊賀衆が火縄銃を構える。

引き金を引いた瞬間、轟音が響き渡り火縄銃の先から煙と火花が飛び出す。

火縄銃の轟音に皆が一瞬動きを止めた。

「凄まじい音だ」

三淵晴員は火縄銃の轟音に驚いていた。

「上様。これほどの音。馬が驚いて戦になりませぬ」

「晴員。音だけではないぞ。皆、着いて参れ」

将軍足利義藤は真っ先に標的の甲冑に向かって歩いていく。

他の者達も慌てて後を着いていく。

標的の甲冑の前に立つとその威力に皆が呆然とした。

「鉄で覆われた硬い甲冑に穴が空いている」

鉄で覆われている甲冑の胴体部分の中央に円形の穴が空いていた。

「藤孝。これが火縄銃の攻撃で開いた穴だ。しかも、弓のように厳しい訓練や才能はいらん。少し訓練をして集団で撃ち込めば、敵は逃げることも叶わずに的となり、敵を倒すことができる。威力は分かったな。晴員、元常。腕の立つ鍛治職人を集め、火縄銃を大量生産せよ。ただし、秘密を漏らすことないようにせよ。この火縄銃に将軍家の命運がかかっていると思え。良いな」

「「承知いたしました」」

将軍足利義藤の言葉に重要な仕事を任された喜びを見せる三淵晴員と細川元常であった。

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