第二章

第6話 悪魔は悪魔ごとに能力が違う。

「久しぶりだなぁ、セナちゃんと会うの」


 隠せないツノと翼をはためかせ、わたし、『雹ヶ峰ひょうがみねハジメ』は浮かれていた。第2層以降の亜人は女性であっても命の危険がある。亜人と関わることができるのは同じ亜人のみなのだ。


 などとカッコつけてみても、一度も男性と関わることができないのはヒトとしてどうなんだろうと常日頃から思っている。


「それにしても、何だかセナちゃん、上機嫌だったような……?」


 電話越しの声からでもわかる喜び様、掘り出し物でも見つけたのだろうか。それとも、大学で出すレポートが1発で通ったとかかな? なんて考察を続けているとインターホンが鳴った。


「はーい! 今出るよセナちゃん!」


 久しぶりの来訪者にウキウキを隠せないまま扉を開けると……。


「ハジメちゃん! 私、彼氏ができちゃった!」

「……え?」

「紹介するね! 雲原ハルトくん!」


 セナちゃんの背後から現れた青年、雲原ハルトさんと紹介された男性の人。

 わたしと同じくらいの身長、パーカーを着ていてフードを深く被っているので顔はよく見えない。チョーカーを付けていて喉仏も確認はできないが、肩幅が少し広いので男性ということには間違いない。


「……雲原ハルトです。その、よろしくお願いします」

「え? は?」


 ハルトさんはセナちゃんに手を引かれた状態でおずおずと出てきてそう言った。わたしは、ただただ、状況を理解するのに精一杯で情報量で頭がぐちゃぐちゃになったような感覚で惚気話を聞くしかなかった。


「……男ぉ!?」

「今気づいたの!?」

「いや、現実感がなくて……」


 とりあえず部屋に上げてみてようやく、事の重大さにわかってしまった。

 ハルトさんは『男』、亜人に触れられる男性の人。この情報が世に出てしまったのなら、亜人保護特区は恐ろしいことになってしまう。冷や汗が止まらない、目が乾いてくるのを感じているし、『瘴気』もいつもより出てくる。


 唖然し尽くして黙り込むことしかできないわたしをセナちゃんは心配そうに覗き込んでくる。


「……」

「そりゃあそうなっちゃうよね……」

「……」

「わかるよ。とてもわかる。正直な話、私がハジメちゃんの立場だったら何も言えなくなっちゃうよね……」


 セナちゃんはうんうんと頷きながらそう言った。

 わたしとしても、異性の人と関わりを持ちたかった時期もあったけど、まさかこんないきなりその機会が来るとは思わない。


 わたしは意を決して雲原さんに自己紹介をした。


「……雲原ハルトさん、でしたっけ?」

「……はい」

「わたしは『雹ヶ峰ハジメ』、17歳。見ての通りの悪魔です。『悪魔』と言っても千差万別ですので、わたしの『能力』について教えようと思います。あなたの手をわたしの手のひらに乗せてください」


 雲原さんから見るとわたしはどんなふうに映っているのだろう。

 少しねじれた黒いツノ、瘴気を垂れ流す身体、横長の瞳孔、どうせ異性に会わないと思い手入れをしていない髪。


 しまいには人見知り故の淡々とした口調。雑談という概念がないのかと思わせる本題直行便。けれど、わたしは今までそういう交流しかしてなかった。

 雲原さんにわたしという存在を知ってもらうために『能力』を開示して悪意がないことをわかってもらわなきゃ……!


 少し緊張をしながら手を差し伸べる雲原さんを見ながら、心の中で深呼吸をする。

 とりあえず、これでこの人は悪魔に触れても死なない存在ということがわかった。


「これで、いいですか?」

「はい、では、『取引』です」

「ハジメちゃん!?」


 セナちゃんが驚いた表情でわたしを見つめる。

 わたしの『能力』は『取引』。悪魔が行う魂の契約。これをしたが最後、わたしでさえも覆す事はできない、と習った。


「契約:ひとつ、わたしは雲原ハルトに対し攻撃的行為を行わない」

「……」


 雲原さんの手の甲に六芒星ろくぼうせいが浮かび上がる。契約が受諾された証拠だ。

 やはり、潜在的な奥底で彼はわたしに対して恐怖を抱いていることがわかった。


「ひとつ、雲原ハルトはわたしの良き友人であることに努める事」

「……」


 六芒星は消えない。


「ひとつ、雲原ハルトは情に流されず客観的な思考を持って亜人と交流する事」

「……」

「以上を持って、わたしと汝、雲原ハルトの双方に置いて絶対的な友愛を結……」


 契約を締結しようとした瞬間、六芒星が砕け散った。

 つまりは、雲原さんはこの数分の取引間で恐怖心がなくなったという事が推測できる。


「だから言ったでしょ? ハジメちゃん、ハルトくんは亜人の能力が効かないの」

「亜人に触れられるって……そういう……? じゃあ今やっていた事は……?」

「おててを繋いでイチャイチャしてただけだね」

「そっかぁ……ごめんなさい、雲原さん。さっきまでの事を忘れてとは言いませんが、大体が本音です。もし良ければ、わたしと友だちになってはくれませんか?」


 雲原さんは頷いて肯定の意を示してくれた。

 にしても、能力が効かないのであればそもそも六芒星が現れる事はないはずだ。

 不思議だなぁ……。


【あとがき】

 ハジメちゃんのモチーフは山羊の悪魔バフォメットを想像して書きました。


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 果たしてこの小説がラブコメなのかはわかりませんが、カクヨムさんのヘルプでは男性主人公で女性と恋愛関係を結ぶ作品がラブコメらしいのでラブコメだと思います。


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