第5話 雲原ハルトは1年前に耐性を自認している。

 セナさんと出会って1週間程度が経った頃。

 僕、『雲原ハルト』は激動の日々を過ごしている。


 急に拉致されて、犯されて、大学辞めさせられて、同棲を強制させられて、実家に言い訳をしたり、契約していたアパートを解約したりして……。

 僕が男だから良かったけど、性別を逆にするだけで寒気がする。


「うーん」

「どうしたの?」

「いや、その……」


 正直なことを言うと、僕はセナさんに惚れていると思う。

 肩甲骨あたりまで伸びた黒檀のような綺麗な髪、切れ長な黄金色の瞳、整いすぎてる顔、そして、男好きそうな凹凸おうとつハッキリとした体。


 そんな男の理想を詰め込んだ彼女が迫ってきているんだ。

 高名な僧でも断ち切れなさそうな誘惑を、当然僕が断れるわけがなく……。


 そんな彼女は僕無しでは生きられない体になってしまった。

 比喩とかではなく本当の意味合いで死ぬかもしれないらしい。


 でも、僕はなんでこんな体質に生まれたのだろうか。

 それは、子供の頃からずっと疑問に思っている。


「なんで僕は淫魔に触れても大丈夫なんだろうなって……」

「それは私も思うよ。でも君は間違いなく淫魔の救世主。そして今度会う子にも耐性があるのだったら亜人の救世主になれる。亜人はみんな可愛い子だよ? ハーレムだって作れちゃうの」

「僕は不貞行為には抵抗が……」

「そういう割には、ニヤけてるね。やっぱ男の子なんだねぇ」


 うぐ……思わずどもってしまった僕がいる。そりゃあ、僕だって1人の男で、性欲も人並みにある。毎晩なし崩しにエッチしちゃう程度には。


 そんな感情を読んでいるからか、セナさんは不敵な笑みを浮かべて言った。


「でも、貴方とエッチするのは私だけ。恋人は増やしてもいいけど、夜の貴方は私が独占する。絶対に。それに……」

「それに……?」

「来週会う悪魔ちゃんはね、自分の処女はじめてを大切にしてるの。淫魔みたいに生命活動に必須というわけじゃない。君もそうでしょ? 不貞を働きたくない。それと同じよ」


 良かった……いや、これが普通だ。

 そりゃそうだ。セナさんが淫魔だから仕方なく僕とエッチしてるだ……け?

 いや、その割には結構ノリノリだよね。


 贅沢ながら、シたくない日もあって、その時は向こうから逆夜這いされ……て。

 あれ……? まあいいか、そこら辺は。


「というか、ふと思ったんだけどハルトくん」

「なんでしょうか」

「その言い草だとまるで、『昔にも亜人にちょっかいをかけられた』ように聞こえるんだけど」

「まあ、そうですね。童貞もその時無くなったし」

「は!?」


 おっと……これは禁句だったかな。

 口をあんぐりと開けている珍しい姿のセナさんに説明を始める。


「昔、と言っても去年ですね。夜勤のバイト先に亜人の人がいたんです」

「しゅ、種族は!? ここで暮らしてるの!?」

「『吸血鬼』……ドラキュラとかヴァンピールって呼ばれてるアレです」

「脱走してる! 『第三層』の怪物が脱走してる! 理性じゃ抑えきられない吸血衝動が脱走してる! はぁ!? 美しい乙女の血を好むっていうあの吸血鬼!?」


 僕は頷いて肯定の意を出した。

 すっごい美人さんだったけどあの後、普通に暴行罪で逮捕されてた。

 血を抜く行為って普通に死ねる可能性があるからそりゃそうなるよね。

 血を吸われても別に眷属にならなかったし、貧血の症状が出るということもなかった。


「そもそも、本質的にビアンな吸血鬼がなんでハルトくんを……?」

「わかりませんよ、僕に聞かれても。『触れても殺したくならないなんて初めて、眷属にしてあげるわ!』みたいなことは言われましたけど結局血を吸われても眷属になってませんし……」

「なんというか……これで確信を得たよ。ハルトくんは亜人に耐性がある!」


 ビシッと人差し指を僕に向けて断言するセナさん。

 でも、いくら淫魔と吸血鬼が大丈夫だったからと言っても僕は死にたくない。

 悪魔の瘴気の恐ろしさは散々、歴史から学んでいる。


 約70年前のパンデミック『如月事件きさらぎじけん

 特区を脱出した悪魔『如月ナミエ』が、亜人特有の身体能力で日本中を駆け回ってとてつもない災害が起こった。医療もそれほど発達していない戦後直後の時代だったため、流行り病の感染症なのか魂を吸われて死んだのかがわからず、原因が発覚するまで経済が止まった一大事件。


 悪魔1人で起きてしまった大事件。ナミエは最終的に

 その後、自衛隊が『処理』をした。


 今でも続いている議論『亜人保護特区の人権問題』におけるメインテーマのひとつ。

 それが『如月事件』。

 第二層以降の亜人は働かなくても無理なく生きられるが、その代わり外の風景をテレビなどのメディアからでしか見られない。そんな誰も幸せにならない議論……って違う!


「とにかく、今までと違って僕から死地に向かうことになるんですよ!」

「吸血鬼と淫魔がいけたならいけるって。現に瘴気今かかってるけど大丈夫だし」

「かかってる?」

「さりげなく誘導してたんだよね、ダクト付近に。ほら、ベランダ近いでしょ?

 ここに色々な亜人の鱗粉やらが溜まるんだ。網戸越しに少し触れてるでしょ?」


 そう言われ足元を見ると黒い粒子が固まってできた塊があった。

 サラサラした感触のそれが僕のくるぶしらへんに当たっていて……。

 あ、耐性あるなコレ。


「もう死地にいたんですね、僕」

「そうだよ。じゃあ来週、一緒に行こっか!」


【あとがき】

1000PV突破! ありがとうございます!

良ければ、フォロー、星、ハートでの応援をお待ちしています。

モチベーションにつながります!


これにて第一章の終了です。次回から隔日投稿となります。

次回の投稿予定日は5月7日となります。気長にお待ちいただけると幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る