第7話 第二層以降は亜人だけが補修工事ができる。

 目の前でやいのやいの、キャッキャと、仲睦まじく会話をしている2人を見ながら僕は雹ヶ峰さんの家に来るまでを振り返った。

 少し前に遡る……。


 ⬜︎⬜︎⬜︎


「それで、どうやってそのご友人の家へ向かうんですか?」

「ん〜? 普通に歩いてだけど」

「えっと……バレないんですか? 脱走対策に監視カメラとかあるわけですよね」


 亜人が男を特区に連れ込んだとわかれば一大事になるはず。そう思いセナさんに質問したが、当のセナさんはフフンと鼻で笑っていた。


「確かに、監視カメラやドローン、果ては衛星管理システムまである亜人保護特区だけどね、意外と穴はつけるものなんだよ。穴と言ってもm……」

「そういう下ネタはイイですから」

「えぇ〜? 淫魔の間ではお決まりなんだけどなぁ、穴は穴でも〜? ってやつ」

「淫魔である前に女性としての心持ちをですね……」

「お? ジェンダー差別かぁ? って冗談冗談! 本題に戻ろっか」


 笑えない冗談をケラケラとのたまったセナさんを躱わしながら、友人さんの家に行く方法を聞いた。


「いくら監視網が張られても所詮カメラでしかないんだ。サーモグラフィーがあってもX線のような透視できるカメラがあるわけじゃないからね」

「まぁ……透視なんて亜人にしかできませんから」

「そうなんだよね。つまりは……フード付きのパーカーを着て、フードを深く被って、喉仏の所にチョーカーをつければほぼ見破られないのさ!」


 と、どこからともなく紺色のパーカーを取り出して僕に渡してくるセナさん。

 これを着ろという事なのだろうか、そもそもいつ調達したのだろうかと疑問になっていると、セナさんは説明を始めた。


「そのパーカーはね、私が以前まで使ってたお古なんだ。私よりも身長が低い君なら着れるかなって」

「……そうは言っても一応男なんです、こう……体格とかで」

「つべこべ言わずに脱げ!」


 持ち前の亜人パワーで脱がされ上半身裸になってしまった僕。

 それを知覚した僕は甲高い声で叫んでしまっていた。


「あああああぁぁ!」

「ぐっへっへ、イイ声で鳴くじゃあないかぁ……」

「いきなりは、ちょっと!」

「養われている身分で何を〜?」


 ぐっ……それを言われたら何も言えない……!

 いや、待てよ? どちらかと言うと僕は完全な被害者であって、養われろと脅迫された身であるのは僕の方だ。

 ……まあ、考えても仕方ないと思い、セナさんから受け取ったパーカーを着てみた。


「似合ってる! うん、間違いなく女の子だよ!」

「やっぱそう思ってたんですか!」

「まぁ、ベッドではハルトくんが女の子になってしまっているけど、女装プレイもありかもねぇ……。この前もさ、『もうやめて! おかしくなるぅ!』って可愛かったなぁ……」


 初対面の時に聞かれた性別確認が半分本気だったとわかり、ちょっとだけ、ほんのちょっぴりだけ落ち込んでいると、化粧道具らしきものを持って、ウキウキを隠せない顔でこちらに近づいてきた


「後は、メイクして整えたら……完成! 完璧に女の子だよ!」

「……僕は生まれた頃から男ですって」

「ふふふ……それはどうかな? 手鏡を見なさいな」


 そう言われて差し出された手鏡を見ると……


「これが、僕?」


 テンプレのようなことを言ってしまう程度には鏡の中にいる人物が自分とは到底思えなかったのだ。


 決して美人とは言えないが、それでも何も言わなければ第一印象で女性と判断される程度には女性らしい顔になったと思う。ボーイッシュというのだろうか、とにかく、好きな人は好きそうな顔になっていた。


「あとはウィッグさえあれば、って感じだけどあいにく私は今の髪を気に入っているの。だから、チョーカーを付けて喉仏を隠したら出来上がり!」

「しかもこの上にフードを被るんですもんね」

「そうそう! 絶対にバレない! 準備も整ったしさぁ行こう、『第二層』へ!」


そうして僕は1週間ぶりに外の空気を吸えたのだった。


【あとがき】

後編に続くので短めです。

サブタイトルを考えるのが難しくなって来ました。

というか第二層が特筆すべき点がないという表現が正しいのかもしれません。


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