Chapter:2



『 ぁ…テストテスト……ン"……。新入生の皆、ようこそ中高一貫・杏子校あんずこうへ! 』

会場は少しのざわつきを見せていたが、愛想良く笑顔で朝礼台に立つ彼に一目惚れたかのように静まり返った。

『 僕、生徒会長の時雨孤白しぐれこはくと申します! 』

白銀のマッシュルームヘアに近い髪は、ほのぼのとした彼の性格とマッチし、少しの可愛らしさを感じさせるものであった。

よろしく。と微笑みを見せた彼はまるでペトラクレアの教会で天に祈りを捧げる天使リファエルのようだ。

今私が椅子にもたれかかりながら見つめているのはお母様……といっても女神同様の心優しきお方のお連れによってやって来た場所である。

お母様のお話によれば、ここはチュウガッコウという学びを教える学童であり私の人生に大きく関わってくるんだとか何とか……。

無料金・無契約で生活代……ましてや学習代の料金までもを補ってくださった彼女にはわたくしの命を払っても代えられない御恩が出来てしまった‼

=代償の塊。

それにしても、この辺りは見慣れない風景だった。

私100個でも足りない大きさの四角い縦長のブロックがあちこちにあったり。

木でも石でもない床に、形の変わった色とりどりの車が走っていたり。

2mくらいの高さに人の形が刻まれた赤と青の灯りがあったり。

ここはペトラクレアではなく、日本という華麗なる国らしい。

ここでは他の国とは違う文化や構造が山ほどあり、お母様は一瞬でここに見惚れて移住してきたんだそう。

環境が一変し、私がまだ知らぬ言語やまだ見ぬ世界が見えてくるのだろうか。

そう思うとアスカは、長年の眠りから解き放たれた好奇心を隠し通すことはできなかった。

わくわくのどきどきで胸の鼓動が抑えられない‼このままじゃ血圧が向上し続けて胸が圧迫して死んでしまう………ガハッ。

時雨さんが不思議そうに見つめているにも関わらず、私はひとり始業式の会場で百面相をかまし続けるだけだった……。




「ハゎ……んがぁ……ウムムムぅ……」

快・楽☆

なんと快楽なのでしょうか!

ガキの頃は皆で駆けっこ………より正直ひとり家の中で寝てるタイプだった私には何といっても好都合。

「ず、ずっとこの状態なのです!どのように対処すれば良いのかもわからず……」

さっきまで始業式を迎えていたのに……。

そう感じた人、いますよね。

いますよね???

その真相は、さかのぼること数時間前……。




夢とは幸せだ。

夢は現実=ド・貧乏生活を忘れさせてくれる強大な力をお持ちなのだ。

このように素晴らしい影響を与えてくださるものには、いつも敬意を忘れずにするという我家の大きな宿命を成し遂げるべく、私はいつも夢に感謝を込め生きている中で敬語を外しはしなかった。

例え悪夢を10連続見ようと我が家は貴方様に敬意を持ち続けます。

夜眠る時には家族で3回これを唱えるのであった。

まあ、11回目に許すとは言ってないけど。

ほっこりとした温かい笑顔が、徐々に凶悪な笑みへと変わっていった。

ん"……私情の話はよして、さっきからずっと眠り続けているけれど、現実ではどのくらいの時間がたったのだろうか。

そう、夢は夢で大きな弱点があるのだった。

夢を見ていられる時間は限りがあるということ。

夢を見ている時間は現実でもまた時間が過ぎてゆくのだ。

夢の中と現実には多少時空の歪みはあるが、夢の中での1日が現実ではほんの一瞬だったとしても、その一瞬も何十、何百と積もれば膨大な数になりかねない。

『 塵も積もれば山となる 』‣『 夢の中でも現実でも時間は必ず過ぎてゆく 』

これが夢の弱点である。

だからこそ、夢を見るとは生きる時間を使うと同様、人生においての"幸せ"に至るのである!

幸せとは命‼

命とは時間‼

時間とは夢‼

夢とは幸せ‼

このサークルを大切にし、アスカは決して生きる中で忘れはしなかった。

夢は幸せを呼ぶもの……もっと眠れば……。

始業式中ということも忘れ、私は椅子の上で眠りの準備に取り掛かった。

その後始業式が終わった後も眠りから覚めることはなく、意識不明との通報。

救急搬送され今に至るのである。




「一応親御さんに見てもらえばな、と思い。もしかしたら原因を知っているんじゃあないでしょうか?」

「これは……まあ……」

アスカが意識不明で救急搬送!?と半信半疑で仕事を取りやめ病院へ直行したけれども……これは……。

よだれを流しながら気持ちよさそうに目を閉じ……寝ている娘。

アスカが意識不明なんておかしいと思ったのよ。詐欺かと思って一応防弾チョッキを着てきたけど、意味なかったみたいね。

そう、アスカが人生で病気になった数は2回。

打撲や骨折で病院に来た数は0。

ましてや怪我で保健室に来た数すら一度もないというザ・健康体であった。

まあいわばビビリ体質なのだけれど。

健康体であることは我が娘として大いなる自慢のひとつだったけれど……。

うちの娘が始業式で爆睡して緊急搬送なんてことが知られたら……長年保ち続けてきた我が家の華麗さが落ち度になり……今後の"私"の生活に支障が出るわよね。

ここで本当のことを話すのはnot・beautiful。

美しさの欠片もないわ!

嘘も美しさを保つ手段のひとつ。

美しさに慕えられる者を目指す為には、嘘を愛し、そして嘘に愛される体にならなければいけないのよ!

その第一歩として、まず自分自身が嘘をつくことから始めましょう。

「これは、この子の健康の良さに秘訣があるんです。快適な睡眠を猶予のある時間に取り、健康体を保ち続けているといるのです。それで、眠りから覚めることが少し難しい体になってしまったというわけですね。本当にすみません」

ぺこりと頭を下げる。

これはこれは何という美しさ!我が家の健康体維持(嘘)という華麗さを感じ取ってもらえたかしら。おほほほほほほ……。

そう高らかに笑う。

「あ、そうなんですね……ご無事で何よりです」

「はい。本当に申し訳ございません。ほらアスカ、起きなさい」

「……」

「アスカ?」

「……お母様!?申し訳ございません。会場の椅子がとても居心地がよく快適な睡眠を保つために最適だったもので……」

あら、朝から不思議に思っていたけれど、我が子はいつからこんな華麗な言葉遣いになったのかしら……まあ、こっちの方が我が家が美しく見えるわね。空気を読めるいい娘じゃないの、アスカ。

「いいのよ。帰りましょう、時間よ」

「ええ」

そしてゆっくりと病室の扉を閉めた。

(怖い‼あの一家は家族内で上下関係を築いているの!?貴族社会に戻ったみたい…)

看護師はそう心の中でつぶやいたのであった。

















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