第26話 アカネチェイス(前編)
スタタタタタタと、ステテテテテテンと、弾む香和が意気揚々と魔法陣の周辺にある木々にセンサーを設置して行く。
多分センサーが反応するセオリーとか、特性とかももろくに把握していないっぽくて、やたらとニヤニヤしながら比較的低い位置に付けてた。きっと香和の頭の中では、大層立派な魔法使いや、地球外生命体が、センサーに引っかかっている瞬間を妄想してることだろうな。別段訊かなくても予想は出来るぜ。
そうしてバッグに詰めてた全てのセンサーを設置し終えた香和が、未だ置き去りにされてた俺と瑠璃垣のところに戻って来る。さてさて、これから何をするのやらだ。
「ほらほら、二人ともこっち」
「こっちってどっち?」
「こっちはこっちだよ。あそこの物陰に隠れるの」
「なんのために?」
「それはもちろん、魔法陣に引き寄せられた神秘の隠匿を暴くためだよっ! 地球外生命体、魔族、あと幽霊なんかもいいな〜……ボクは逢いたい、捕まえたい、撮影したい、なにより話したいっ」
「熱意がエグいな」
「っと、こうしてられない! ほらほら、ボクらの存在を悟られるわけにはいかないし隠れるよっ」
「お、おう……ったく、俺たちまで神秘の隠匿とやらにするつもりじゃないだろうな……」
そう。華麗な指先のクルクルマジックのあとに手招く香和に促されるまま、俺と瑠璃垣も物陰に隠れる。そこは直線上に魔法陣が視認可能かつ、生い茂ったまま取り残されている、人が数人が身を潜めるにはちょうど良い灌木があって、まさに絶好の張り込みスタイル場所となる。
ちなみにその真後ろにもセンサーがあるらしく、変なところで抜かりはない。魔族とか地球外生命体とか幽霊とかじゃなく、俺たちと同じ一般人なら不意を突かれるようなことはなさそうだ……あくまで正常に機能すればの話だが。
「ん〜〜ワクワクだね〜」
「楽しそうだな」
「うんっ」
「……さあて、どーなっかな」
つか魔族みたいな、そういった存在にセンサーって反応するものなのか……とか、本来なら指摘するべきなんだろうが、俺からは黙っておくことにする。代わりに瑠璃垣がツッコむなら仕方ないが、せっかく香和がお小遣いをはたいて作ったシステムだ。仮に魔族とかが引っ掛からなかったとしても、野生のタヌキとかキツネとかがセンサーに反応するだけで、まあまあ盛り上がるだろ。いっそそいつらを侵略者にでも仕立て上げてもいい。きっと香和の好奇心の琴線に触れる存在だろ……侵略者も。まあ違ったら違ったで俺が驚くさ。こいつの基準どうなってんだってな。
「香和ちゃん? 何持ってるの?」
「あーこれはね。センサーに反応があるとブルって震えるんだよ。まだスイッチオフにしてるから、何にもならないけどね」
「へーそれ便利そう。私も使いたいな……屋上に先生が来たら身を隠せられる」
「もう蒼乃ちゃん。あんまり屋上に行くと危ないし、心配されるよ?」
「分かってる。でも落ち着くんだよね、あそこ」
「……ギターとか弾いてるんだっけ? 音漏れとか大丈夫なの?」
「うん。エレキだし、ヘッドホンに繋げられるように出来るから。いつでもどこでも騒音トラブルにはならない」
「へぇ〜じゃあ毎日屋上ライブだ」
「あはは、そうかも」
「………………ここには自称ミュージシャンもいたか」
「ちょっとなによシコシン。文句?」
「どちらかというと瑠璃垣を応援してる方だって。それよりも香和、そろそろセンサーのスイッチを点けてもいいんじゃね?」
「ああそうだそうだっ。危うく今通った何かを見逃しちゃうところだよ」
「俺としては、見逃してくれてもいいんだがな」
「せーのっ、えいっ」
四角形のリモコンに付いたスイッチ。
それをあっさりとオンにする。
すると今まで黒々とした小さなドーム状が、起動してる証だと示すように赤々と輝く。
こういう明かりってなんか、微力の電気が流れているだけのはずなのに、ちょっとテンション上がるよな。イルミネーションに近しい感動だ。
「っと、感心してる場合じゃねぇな」
さあ、張り込み開始。
全く、どのくらいまで粘るかな。
深夜は勘弁してくれよ。家に帰れねぇし。
高校周辺だと意外と、親しい同級生もいねぇんだから。
まあんなこと思っても仕方ねえんだろうけど。
結局のところ俺は、この自称魔女の行く末を見たいんだ。
色々思うところはあるが、香和が満足するまでは、付き合っちまうんだろうな。
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