第16話 決闘
暖かい日差しの当たる窓際。平和な昼頃。
昼食を終えた生徒達は、グラウンドに出たり図書館に行ったり
教室で会話をしたり、気楽な自由時間を過ごしている。
暖かい昼下がりは、幾人かの生徒を眠りへと引き込む。
「はぁぁぁぁ…」
そんな中、憂鬱な気分をまき散らした少女が机にうつ伏せになっていた。
たまに顔を上げたと思えば、すぐにうつ伏せになり大きなため息をつく。
スイはオロオロとその場をうろつき、少女に声をかけているが
何も変わらずこの調子だ。
彼女がこうなってから、かれこれ20分ほど経過している。
今にキノコでも生えそうな湿気をまき散らしているこの少女の名はヒータ・レカリウル。異世界からの転生者である。
「…目立っちゃった」
「え?」
「目立っちゃったよぉぉぉ…」
そう。ヒータ・レカリウル(元の世界では黒風美聡)は、現実世界に生きていたころはほとんど外にも出ないような陰キャだったのだ。
「そうだよね、そもそも私がスイちゃんを守れるわけないし、そもそも私みたいなのが生きてていいわけが…」
「ヒータさん…っ」
ヒータは現在、目立ってしまったことに加えてスイを守り切れなかったことを悔やんでいた。
自分が守ると豪語しながら、結局スイを危険な目に合わせてしまったのだ。
前世含め初めての友達を気づつけてしまった陰キャは、少しずつ自己嫌悪に陥るものだ。
しかしスイ。そんなことは微塵も知らない。
(紫髪の自分が疎ましく感じているのかな…。ヒータさんでもやっぱり悩むんだ…。自分に自信がないのなら…そうだ!)
スイはとある人物の元に走って向かっていった。
「ヒータ・レカリウル!俺と勝負してくれるというのは本当か!」
(えぇぇぇぇぇ!?ガウラ様ぁぁぁぁ!?)
スイが走って向かった人物。それは攻略対象が一人、ガウラ・ダーズリーであった。
きっとガウラと勝負して勝てれば、ヒータは自分に自信が持てるだろうと考えたのである。大誤算な上に、その生贄となるガウラが可哀そうである。
水がない場所で息をしようとする金魚のように口をパクパクと動かしているヒータを見て、ガウラはふんっと鼻で笑う。
「やはりレベル99は不正だな!今更怖気づいたか!」
「…は?」
先に言っておこう。陰キャとは割と短気なのである。
マイナス思考を巡らせている陰キャに、自分の発想を押し付けると、相手はガチギレする。この世の理である。
「誰が…不正ですって…?」
「お、おう…」
その気迫にガウラは押された。裏ボスの覇気(ほとんど陰キャオーラ)に中てられたガウラは、思わず息を飲む。
(こいつ…ただものじゃねえ!)
ただものである。
「いいですよ。この機会に一度勝負してあげます。私が勝ったら私がレベル99だと認め、今後!一切!不正だのなんだの言って付きまとわないでください!」
「わ、分かった…」
陰キャの本気は怖い。それを思い知らせてやろうと、ヒータは学園内にある闘技場へ向かった。
セントエール学園は、剣と魔法と学びに溢れた組織である。
そのため、騎士団からの特別授業や、宮廷魔術師からの特別講座など
様々な学びの機会が与えられる。
その学びの機会のための特殊な箇所の一か所に当てはまるのがここ、闘技場である。正確に言えば闘技場ではなく、模試訓練実行場所なのだが、皆はそこを闘技場と呼ぶ。
生徒同士の決闘は大抵ここで行われる。
そこに二人の生徒が訪れていた。
一人は夜空を思わせる美しい紫髪をなびかせた少女、ヒータ・レカリウル。
もう一人は夕焼けを思わせる赤い髪を持つ少年、ガウラ・ダーズリーである。
夕日を思わせる赤黄色の目と、血を思わせる赤色の目。よく似た二人の目と目が合う。
司会者の席に座ったスイが、「それでは、ルール説明を始めさせていただきます!」とマイクに向かって声を張り上げる。
闘技場の観客席には、幾人もの生徒が座り、闘技場に立つ二人を見つめていた。
昼下がり、昼休憩も半ばごろ。
二人の決闘が始まる。
「5分の一本勝負!魔法は使用禁止、武器の使用はこちらで用意した木刀のみです!」
いつのまにそんなもの用意したんだ。
「相手が戦闘不能、または降参したら終了です!」
木刀を片手にガウラ様と向き合う。
「ふんっ、今更怖気づいたか?」
(舐めんなクソガキ)
ヒータはぶち切れ寸前であった。
「レベル99のお前は確かに魔法技術は高いかもしれない。しかし、単純な剣の腕前は俺の方が確実に上だ!」
(うるさい…)
堪忍袋の緒はすでに切れかけだ。
「それでは―――開始!」
こちらにガウラが走って近寄ってくる。力任せの縦ぶり。だがおそらく、防御力カンストの私が当たっても痛くもかゆくもないだろう。
しかし、それはそれで後々いろいろ聞かれるだろうし面倒だし…。
(よし、木刀折ろう)
レベル99の動体視力と、レベル99の身体能力をふんだんに生かした戦法。
ルール違反とか気にしない。
マイナス思考の陰キャはIQが3になるのだ。よく覚えておこう。
バキィッ!
「…は?」
驚いた隙に、軽めに胴に木刀をあてる。
本人は軽めのつもりだが、その威力、騎士団長と同等の強さだ。
「グハッ…」
「…んっ?」
(どうしよう、やりすぎたかもしれない)
今更である。
「ガウラ・ダーズリーの剣の損傷および横腹への攻撃により、戦闘不能とみなします!勝者!ヒータ・レカリウル!」
しかし、あまりにも惨い…相手に同情してしまう勝ち方だったので
会場に拍手は響かなかった。
「…」
本当に、強かった。
木刀を素手で叩き折り、横腹に一撃を加えてきた少女が脳裏に浮かぶ。
(あれだけ自信があったのに…あいつの方が強いのかっ…!)
敗北という事実に打ちのめされる。
(どうやったらあいつに勝てる?―――そうだ。あいつはレベル99。自分もそれなりに苦労してレベル99になったんだ)
きっとあいつなりの訓練の仕方があるはずだ。
(どのみち、俺が強くなるには彼女と仲良くならなければならない)
そうして訓練のコツを聞き出し、俺自身も強くなるんだ。
そうしていつか、絶対にあいつを倒す!
(見てろよ―――ヒータ・レカリウル!)
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