第14話 四天王

黒い球に入ったその先。

そこは白を基調としたヒータ達の住む国の王城とは似ても似つかぬ

黒を基調とした美しくも不思議と恐怖をあおるような空間であった。

そこは魔王城の大広間。魔王謁見の空間である。

「ったく…。任務失敗どころか、アヤはデディーベアを気づつけられて帰ってきたのかよ。四天王の恥だな、おめーらは!」

最初からその空間に行儀悪く座っていた男は、後から入ってきた三人にそう怒鳴りつけた。

「働いてない人に言われたくないなー」

「私たち、働いた。あなた、働いてない」

「俺は出動命令出てねーもん」

カチリ。黒髪の女が仮面を外す。血色の良い白い肌に、すべてを見通しているかのような金色の目。仮面の下から出てきたその美しい顔は、人間が見れば全員息をのむ美貌であった。

「ふぅ…仮面って、暑いわね」

「じゃあなんで被ってるんだよ」

「顔ばれしたくないもの。ヒロだっていやでしょ?」

薄紫の髪と群青色の目、整った顔立ちの乱暴な男―――四天王が一人、〈悪魔使いのヒロ〉は、その言葉に呆れたようにため息をついた。

「はぁ…俺はそんなに気にしてねーよ。見たやつを殺せばいい」

「私、乱暴な人は嫌いよ」

「どうとでも言え」


魔族最強の魔術師〈快楽のイリ〉

大きなデディーベアを操り攻撃する〈悲しみのアヤ〉

どんな武器でも使いこなす最恐の武器使い〈神秘のレイ〉

この世に悪魔を召喚し、それを見事に使いこなす最凶の魔人〈悪魔使いのヒロ〉

四天王全員が、今ここにそろう。


「んー…。それにしても魔王様の目的って、結局何だったんだろうね」

「私、あの命令、よくわかんなかった」

「ああ、あの命令って―――」


「静まれ」


気配もなく、後ろから声がした。

玉座を見るが、そこに人の姿はない。

後ろを振り返ると、そこには美しい貴人が立っていた。

その紫の髪、魔力の多い魔族の証。

その黒い角、魔族の頂点に立つ強さの証明。

その美貌、あまたの魔族を魅了する武器。

漆黒のマントをなびかせ、玉座に足を組んで座る。

その姿を前に、その気迫に押されたか、それとも敬意の表れか

四天王たちは全員一斉に跪いた。

「本日はどのようなご用件でしょうか、魔王様」

感情のこもらぬ声で、ヒロは淡々と要件を魔王様に伺った。

「…貴様ら全員、任務を遂行できなかったようだな?」

「…!」

任務に向かっていた三人は、体を硬直させる。

アヤとレイに下された命令は「スイを魔王軍に引き入れろ」

イリに下された命令は「ヒータ・レカリウルの足止め」であった。

「…申し訳ございません、魔王様」

「余は寛大なり。今回は今までの功績に乗じて許そう。だが、次はないと思え」

「承知いたしました」

イリはもの言いたげに魔王を見ていたが、魔王はそれを知らぬというかのように無視をした。

魔王がどこかに消えた後、レイは安心したように息を吐きだした。

「魔王様、相変わらずすごい気迫ね」

「俺任務してねーのに!おめーらがミスしなかったら俺怒られなかったんだぞ!」

「全体責任だよねぇ」

「さっき、私たちを、侮辱した罰」

「…でも、次失敗したら、僕たちは―――」

「大丈夫」

暗い顔になったイリを励ますように、アヤは少しだけ声を張って皆を見つめた。

「あの人の代わり、見つけたから」


その紫の髪、強さの証。

その赤い目、魔族を引き付ける魅力。

その美貌、魔族を率いるにふさわしきもの。


「ヒータ・レカリウル。あの人こそ、私たちの上に立つのにふさわしい」

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