第13話 スイがいる場所
「…誰、ですか?」
スイは目の前にいる二人の少女を、恐ろしいものを見る目で見つめる。
一人は自分たちとは少し違う学生服と、腰まである、自分と同じ黒髪。
顔には真っ白な面に黒色で笑顔のペイントがほどこされた仮面をつけている。
もう一人は幼い少女だった。
本当に小さな、5歳程度の子供で、白いワンピースとツバの広い帽子を被っている。
栗色の髪は低めの位置で結ばれており、帽子の下から茶色がかった緑の目が
その年齢らしからぬ静かさでこちらをとらえている。
「私は、アヤ。四天王の、一人」
「…!悲しみのアヤ…!」
「知ってて、くれたの、ね」
アヤはゆっくりとスイに近づく。
そして、右手をスイに差し伸べた。
「あなたを、魔王軍に、スカウトにきたの」
「…え?」
アヤは言葉を続ける。
後ろで仮面の少女が見守っている。
「あなたは、人間から、虐げられてきた。
あなたは、人間が、憎い。違う?」
「それは…」
「あなたなら、闇の魔法を、使いこなせる。
魔王様は、あなたを、認めてくれる」
私を、認めてくれる…?
「あなたの、居場所は、人間界じゃない。
あなたの居場所、は、魔王軍」
「…」
過去の出来事が、頭の中を駆け巡る。
周りから一人浮いていた。
沢山の人に、いじめられて、陰口を言われた。
もしも、私がここで魔王軍に行けば
私はたくさんの魔族から、魔王から、四天王から、認められるだろう。
でも私は―――本当にそれで、幸せになれるの?
「…お断りします」
「どうして?」
不思議そうに首を傾げるアヤに
スイは冷静に答える。
「私の居場所は、もうここにあるので」
昔の私なら、きっとついていった。
認められたかった。あの頃の私に、味方なんていなかった。
でも今は―――違う。
ヒータさんはきっと私を認めてくれる。
あの人はきっと、私の味方でいてくれる。
「…そう。残念」
アヤの足元に、大きな魔方陣が浮かび上がる。
「あなたはもっと、賢い人だと思っていた」
大きなデディーベアが現れ、スイを壁に打ち付ける。
「ガッ…」
「あなたなら、賢い選択ができると、思っていたのに」
柔らかい人形の腕が、スイを壁に押し付け、息の根を止めようとする。
仮面の少女は、ただそれを眺めている。
「さよなら、スイ」
ミシミシと音が鳴り、スイの意識が遠のいたその時
黒い糸が、デディーベアに絡みついた。
「…?」
「スイちゃん!」
紫の髪が、窓から差し込む光で輝く。
血のように赤い目が、アヤと仮面の少女を睨む。
「ケホッ…ヒータ、さん?」
「大丈夫だった!?いや、大丈夫じゃないな。
レンちゃんが回復魔法使えるから!とりあえずそこ行こうか!」
「はい…」
アヤがデディーベアに絡みついていた糸を引きちぎり
二人の前に立ちふさがる。
「逃がさない、から」
ヒータは無表情にデディーベアを見つめ…それを、再び黒い糸で拘束した。
「邪魔するなら、殺すよ」
「…!」
その気迫を、アヤは、仮面の少女は知っている。
「魔王、様…?」
ヒータは無言で、スイと部屋を出る。
アヤは口角を上げて、不気味に笑った。
「やっと、見つけた…」
デディーベアは魔方陣に消え、アヤと仮面の少女の後ろに
漆黒の球が現れる。
(あの人の代わりを!)
アヤと仮面の少女は、漆黒の球の中へと消えた。
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