第9話 スイという人間

スイちゃんが友達になってから、3日ほど経った。

前世含め友達という概念からかけ離れていた私は、スイちゃんという友達ができたことで、周りの声が少しだけ気にならなくなった。

ガウラ様がたまに勝負を仕掛けてくるが、レベルを聞いたところ40前後だったので、まだ早いと断っている。だって、手加減できなくて殺しちゃったらあれだし…。


(そういえば、スイちゃんってどこの寮なんだろう…そもそもゲームにそんなキャラいたっけ?)

モブキャラだと思ってあまり考えていなかったけれど、スイちゃんの見た目、どこかで見たことがある気がするんだよなぁ。

この世界に来てから見たとかじゃなくて、ゲームに名前が出ていたような出ていなかったような…。うん、わからん。

スイちゃんと一緒に寮の近くまで帰ろう。それでついでに、寮がどこか聞こう。

男子寮と女子寮に分かれているとはいえ、寮自体は5つほどに分かれている。

特定はできないし、特定しようとする自分がちょっと気持ち悪い。

「スイちゃ…」

スイちゃんの教室に入り、スイちゃんを探そうと中を見ると、

そこには床に座り込み、泣いているスイちゃんと、見覚えのない二人の女子生徒がスイちゃんの前に立っているという、衝撃の現場が目に映った。


(は…?)


反射的にかくれてしまった。

状況が分からなかった。理解が追い付かなかった。

だって、スイちゃんはあんなに元気そうで、いつだって笑っていて

そんな素振りを一切みせていなくて…。


「ねぇ、あなた、あの紫髪の女と仲がいいんでしょ?」

「え…?」

(私?)

そもそもあの女子生徒は誰だ。

後ろ姿しか見えないからよくわからないけど、ゲームでは見覚えがない。

恨みを買うようなことをした記憶も―――

「紫の髪の女と一緒にいるあなた自身も、不吉なんでしょ?」

(―――あ)

そうだ。私は紫髪なんだ。不吉な子なんだ。


私の中の、「ヒータ」の記憶が蘇る。

魔の子だと言われ使用人に虐げられた。不吉だから出て行けと乳母に言われ寒い冬に外に屋敷の追い出された。執事もメイドもだれも助けようとしなかった。

自暴自棄になることすらできず、ただ黙って耐えて、耐えて、耐えた。

周りの子が私よりも幸せなのが憎かった。うらやましかった。

自分の部屋で何度も何度も、どうすればいいか考えた。

どれだけ成績が良くても、魔術ができても、理不尽に耐えても、私は認められない。

考えた末…いや考えなくても、答えは分かった。

私が理不尽な目に合う理由―――それは、私が紫髪だからだ。


「…スイちゃん!」

「ヒータ…さん?」

とっさに飛び出てしまった。

だって、スイちゃんが責められる理由なんて、何もなかったから。

前世の私を見ている気がして、いやだったから。

「大丈夫?ケガない?」

「大丈夫、です。ケガ、ありません」

先ほどまでスイちゃんをいじめていたあの女子生徒は

いつの間にかどこかへ行っていた。

おそらく私が入ってきたとき、これはまずいと感じて逃げたのだろう。

「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。

 ああいうのには、慣れているので」

「…え?」

もしかして、今までも私のせいで、スイちゃんはひどい目にあっていたの?

「私は、髪色が黒いから、両親からもずっと無視されてきました。

他の子からも、昔からいじめられてきた。

だから、ヒータさんが謝る必要なんてどこにも…」

(…!)

これ、聞いたことがある。

このストーリーを、私は聞いたことがある。


『私はこの髪色のせいで、皆に嫌われた!』


(―――そうだ。思い出した)

魔王。それはゲーム内のラスボス。

冷酷無慈悲と噂され、人間たちに常に刃を向けている。

自らを守る4人の魔族の側近「四天王」を作り、今まで沢山の人間が殺されてきた。

それでも、魔王に味方する人間は幾らか存在する。

その中でヒロインに対峙した魔王に味方する人間―――


その名は、〈闇使いのスイ〉

彼女は黒い髪を持つ、主従の家系の人間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る