第8話 初めての友達

分かってたよ。そりゃあ分かっていましたとも。


「あの子でしょ?レベル99って…」

「絶対不正じゃん。目立ちたいにもほどがあるでしょ…」

(ぜーんぶ丸聞こえなんだよなぁ)

レベル99なんて、過去にいた記録がないだろうし

そりゃあ周りの子から陰口をたたかれますよね。うん。知ってた。

本を読んで集中しようと思い本を開いたが、やはり陰口に耳がいってしまう。

前世からの癖だ。私が黒風美聡だった頃は、クラスメイト全員からいじめられていた。その影響か、私は驚くほど他人の悪意に敏感になってしまっている。

(ここじゃろくに読書もできない…)

昼休憩だからという理由もあり、周りはただでさえザワザワしていてうるさい。

図書室が開いているだろうし、そこで本を読もう。あそこならさすがに噂話をしてくる輩もいないだろう。


ドサドサドサッ。

小説コーナーで読み物を探していたら、上から本が大量に落ちてきた。

「痛っ…。誰だよ…」

周りからの視線が痛い。早めに片付けよう。

お得意の闇魔法を使って本を戻そうとしたその時

一人の女の子が駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「へっ…?」

「戻すの手伝いますっ!」

私より一回りほど背の低い女の子は

焦りながらも本を本棚に丁寧に戻していく。

(あ、私も片づけないと)

このままだと、私がこの子をこき使っているように見えてしまう。




「あの…あなたは?」

私より一回り小さな背の女の子は

私の向かいの席に座ってきた。

改めて女の子を見た感想は、濃い髪色だな、というくらいだった。

ツインテールにされた、美しい夜空を思わせる黒髪。

冬の空を思わせる澄んだ水色の目。背が低く、スタイルが良いかと言われればなんとも言えないが、お姉さん、という感じではなく、かわいらしい妹、と言った方が納得がいく見た目だ。

「私は…スイです。えぇと…あ、主従の家系って言えば分かりますか?」

「…あぁ!」

主従の家系。

代々王族や公爵家に仕えている家系として有名な侯爵家だ。

「私は見ての通り、黒色の髪で…。紫色に近いと周りに言われてから

 友達も全然できません」

「はあ…」

確かに、周りから忌み嫌われる私の髪色…濃い紫色に、スイの髪色はよく似ていた。

「でも!」

「うわっ」

スイは立ち上がり、目を輝かせてこちらに乗り出す。

「ヒータさんを見て、すごいなって思ったんです!

 紫の髪を気にするどころか、それすらも美しく見えてしまう立ち振る舞い!

 尊敬してます!お友達に…いえ、ぜひお姉さまと呼ばせてください!」

どうしよう、だいぶやばい人と関わってしまった気がする。

「全然いいけど…スイは私の髪色、気にならないの?」

どっちみち、モブだろうがなんだろうが、スイもこのゲームの世界の人間だ。

私の髪色を気にして、話しかけてくれたのかもしれない。

「え?ヒータさんの髪色は、きれいですけど?」

「…!」

私はうつむいて黙りこみ、しばらくして顔を上げた。

「いやいや、スイちゃんの方がきれいだって」

「えぇ!?そうですか…?」

「うん、めっちゃきれい」

日本人形みたい、という感想はしまっておいた。

「あと、友達の話だけど」

私の髪色をきれいだと言ってくれた人を突き放す理由はない。

「全然いいよ。スイちゃん」

「…!ありがとうございます!」

スイちゃんはそれはそれはかわいらしく笑った。


「ところで、お姉さまの方は…」

「それはだめ」

「えぇ!?」




『私はこの髪色のせいで、皆に嫌われた!』




「…?」

ヒータは一瞬だけ何かを思い出したが、すぐに忘れてしまい教室に戻った。

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