第7話 将来の明るい子

正直な話、俺が一番レベルが高いという自信があった。


だって、入学前に何度も何度も必死で魔物を倒したし、魔法の練習だってたくさんしたし、幼馴染のユーアにも手伝ってもらったし、剣の練習もした。

毎日が練習の日々で、必死で練習して、寝て、飯を食って、また練習して

寝て、飯を食って…。そんな日々は辛く、苦しく、そして、充実していた。

騎士団長という役職を持っている父親に剣の稽古をつけてもらったこともある。

他の騎士にだって、この年でもう何度も勝った。

だから、こんなお貴族様の学校では、俺が一番だと、信じて疑わなかった―――



「ガウラ・ダーズリー。レベル、32!」

生徒の間から歓声が上がった。

そうだ、俺が一番だ。だってレベル32なんて俺たちの年では珍しい。

新人騎士の最低レベルは30。この子は将来が明るいと、誰もが思っただろう。

絶対に成功する。王子であるユーアはレベル28で、博識の家系であるエイリのレベルでさえも、30で止まっている。俺を抜かすものなんて―――

(ん?)

なんだ、あいつ。

最後の方に呼ばれたあの女は、紫色の髪をしていた。

不吉な奴だ。この学校にふさわしくない。

名前はヒータ・レカリウル。

あぁ、なんだ。王都に住んでいる貴族の娘か。

どうせ金でも積んでこの学園に来たのだろう。


ヒータ・レカリウルは暗い顔で水晶の前に立った。

校長が大丈夫だよ、と励ましているが、それでもそいつの暗い顔が晴れることはない。

あいつは震える手を水晶の上にかざした。

余計に顔色が暗くなったから、校長が心配そうにその顔を覗き込み

水晶に目線を映した。そして、しばらく石のように固まって動かなくなった。

数字を見た先生達もざわついている。そんなに悪い数値だったのか?

そして校長は、震えながらもレベルを口にした。



「ヒータ・レカリウル―――レベル、99」

(は―――?)

生徒達は、歓声を上げることすら忘れ、ざわつき、周りの奴らとひそひそと話す。

壇上に上がっていたヒータは、暗い顔で水晶を眺めていた。

レベルが高ければ高いほど、将来有望なはずなのに。

レベル99なんて、不正に決まっている。あいつの髪は紫色だ。

だから、あいつは悪い奴だ。絶対に不正だ。そうに決まっている。

だって、俺が負けるわけがない。

あんな少女に。不吉な少女に、俺が、負けるわけが―――!


「あのヒータ・レカリウルという女子生徒のレベル…」

「不正だ」

「え?」

学年別パーティーで話しかけてきたエイリの言葉を遮るように

俺は口を開いた。

「俺の親父でさえレベルが60なんだ。親父は人類最強と呼ばれる傷なしの騎士なんだぞ!?あんな不吉な女がレベル99な訳がない!なあ、そうだろ?エイリ」

「…そうですね」

エイリはしばらく目伏せた後、そう答えた。



それから一週間後の夕方。



「…あ」

「ヒェッ…」

ヒータは自分の寮に帰っている真っ最中に、ガウラとばったり廊下で遭遇していた。

「お前…!」

ガウラの顔が目に見えて強張る。

「久しぶりだなぁ、ヒータ・レカリウル」

(きゃぁぁぁぁぁ…)

怒ってる。絶対。美形は怒ると怖いっていうけど、初めて体験したよ。うん。

この国の王子様でさえ、ちょっと手加減してくれたのに。

寮が恋しい。はやく寮に帰りたい。帰らせてくれ。

「お前が不正をしたことは分かっている。だが俺は!それを正面から堂々と打ち砕いてやる!」

「え…」

ガウラは人差し指で私の眉間をぐりぐりと押した。

「俺はお前に勝つ!絶対に!」

「いたたたた…。わ、わかりましたよ…」

正直勝とうが負けようがどうでもいいんだけど…。

もしかしてガウラはそんなに自分の力に自信があるのだろうか?

「レベル99の私に?勝てるんですか?本当に?」

…いやいやいや。言い方を間違えすぎだわ!

これだと私が煽ってることに…。


「…あ?」

ガウラのこめかみに筋が浮かぶ。

(言葉選びを間違えすぎたぁぁぁ)

「…それは俺に対する挑戦状だとみなしていいか?」

「へっ?」

「俺がレベル99を自称するお前に勝てれば、俺は誰よりも強いんだな?」

「えっ…誰よりも、ですか?」

レベル99なんて、誰でもなれるものではない…らしい。

その私に勝てたということは、ほとんどの人に勝てるということかもしれない。

「そうかも…しれませんね?」

「それならば、俺は」

ガウラはまっすぐに私を見つめる。

赤黄色の目が、窓から差し込む夕日できらきらと輝く。

「絶対に、お前に勝ってやる!」

「…!」


『証明してやる…俺が、誰よりも強いことを』


「…わかりました。待っています」

まあ本当に勝てるかどうかは知らないけれど。

「ハッ!せいぜい首を洗って待っているんだな!」

ガウラはにやりと笑ってそう宣言し

自らの寮に帰っていった。



「…いや、普通に早く帰りたかったわ」

そのせいで帰寮時間に間に合わず、寮長に怒られたのは別の話である。

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