第4話 ユーアの過去

それは、ヒータが10歳の頃。

ヒータは、そのころ箱入り娘だった。

しかし、この頃になると、ヒータは外の世界を知りたがるようになった。

そこで、自分の持っている一際大きな鏡に魔法をかけて

外の世界が分かるようにしたのだ。

それは、ヒータの努力の結晶だった。


しかし、外の世界は残酷だった。


自分は虐げられているのに、他の子は違う。

いつだって笑っていて、外を駆け回って、友達と遊んで

たまに泣いて、両親にかわいがられて、そんな毎日を過ごしていた。


そして、11歳になった頃

ヒータは思いついたのだ。


周りが気に食わない。

それなら、周りを自分の所まで堕としてしまえばいい。

自分と同じだけの絶望を、あいつらにも味あわせればいいのだ、と。

それからのヒータの行動は早かった。

まず、視界に入っている場所まで魔法を転移する方法を覚えた。

どうやったら相手がもがき苦しむかを考えた。

それも、自分と同じくらい、辛くて苦しい思いを。


「…そうだ。ものすごくいい事を思いついたわ」

紫の髪が、不気味に揺れる。

「仲間よ!自分の仲間を、その手で殺した時…その姿を、自分が初めて見つけた時、それこそが、私と同じくらいの絶望だわ!」

両親に見捨てられた、仲間なんていない私と

同じくらい、絶望してしまえばいい。


そして、その標的となったのが

その時一番の親友がいた、ユーア王子だった。


「ふ、ふふふ…見てなさい、今、私と同じところまで堕としてあげるから!」




『あなたの一番の親友を殺しなさい』

「…え?」

自分の部屋にいたユーアの頭に、その言葉が響く。

その言葉に従って、体が勝手に動く。


「や、だ…やだやだやだ!何?なんなのこれ?いやだ…いやだ…!」

親友の家に行く。

逃げてよ、お願いだから。

そう願っても、彼は、嬉しそうな、少し戸惑ったような顔で、笑っている。


グサッ


肉を突き刺した感覚。

ドバドバとあふれる、赤い液体。

「あ…ああ…!」

殺したく、なかったのに。

そんなこと、したくなかったのに!

目から、涙が零れ落ちる。

これは、悲しい?それとも…憎い?


徐々に冷たくなっていく体が、止まらない血が

彼が助からないことを示している。

「…殺してやる」

苦しいレッスンに耐えてきた俺を、唯一ほめてくれた

王子としての俺じゃなくて、一人の友達として見てくれた彼を殺すように命令したあいつを。

死にたい、でも、今死んではいけない。

僕は、俺は、復讐しないといけないんだ。

俺の親友を殺させたあいつを、必ず見つけ出して、殺してやる。


これは、決意だ。

俺の生きる意味だ。


俺のすべてを失ってでも、お前を殺してやる。

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