第41話 強者の隣

 ザトーたちと交戦し始めて、既に5分以上経過している。


「『サンセットブレイカー改』!!!」


「……『覇断』!!」


 『サンセットブレイカー改』は両手持ちの技である『サンセットブレイカー』改良し、片手で扱えるようにした技だ。

 威力はその分下がってしまっているが、再使用までの待ち時間が短くなっていて、隙も少なく使い勝手がよくなっている。


 だが、それもスキル無効化によって防がれてしまう。


「バカの一つ覚えだな。そんな技が俺に通じないことはわかっているはずだ」


「わかってるさ!」


「まぁ、『赤道勇陽と付き合っている』などとくだらん嘘をついてまで、俺と戦いたがるんだ。余程のバカだと思っていたがな」


 なんだ。嘘だと気づかれていたのか。


「その割にはマジギレしてたように見えたけど?」


 それについては何も言わなかった。

 意図的にスルーしたのだろう。


「俺と戦いたがる人間は珍しい。ほとんどの奴は俺の相手を嫌がるからな」


 その気持ちはわかる。なぜなら、勇陽だってそうだからだ。

 『勇陽とやってもつまらない』。同年代の人間から、ずっとそんな風に言われていたのだ。

 誰だって、一方的にボコられるのは嫌だからな。

 だからまともに打ち合えるのは僕だけだった。


「そんな人間、あいつだけかと思っていた。夜月でさえ、俺との打ち合いはしたがらないからな」


 神川刀斬にとって初めて対等に打ち合えた相手。こいつにとっては、唯一の理解者と言っていい。

 勇陽にとってもいいライバルだった。

 だが2人は引き離された。


「だからと言って、あいつを渡してたまるかよ!! 悪いけどあいつの隣は、僕の指定席なんでね!!」


「弱い男が! ほざくな!! 強者の隣に立つには、強者でなくてはならんのだ!!」


 胴体を狙った力強い一撃。あやうく食らいそうになるが、ギリギリのところで盾で弾く。

 ずっとギリギリの勝負そしているから、さすがに疲れてきた。

 だが、負けられない!!


「いったい誰がそんなことを決めた? 大切な人と一緒にいるのに、強いも弱いも関係ないだろう!!」


「強者と分かり合えるのは強者のみ!! その孤独も苦しみも、弱者には理解できん!!」


「お前は強者をわかってるつもりかもしれないけど、勇陽のことをまるでわかってない!」


 これは単なるバトルじゃない。

 お互いに、剣と剣を。信念と信念をぶつけ合いなんだ。


「赤道勇陽が女だということにも向き合えていなかった弱者が!」


「その通りだよ! 僕はあいつに真正面から向き合えてなかった! でも、お前だって同じだ! 神川刀斬!!」


 これはかつての自分自身を。そしてこの男を否定するための戦いなんだ。


「お前はこの前までの僕だ。自分の理想を押し付けるばかりで、本当のあいつが見えていない。赤道勇陽は、強くてかっこよくて、ヒーローみたいだけど。それはあいつの一面に過ぎない。あいつは1人の女子高生で、完璧な人間なんかじゃないんだ! 弱いところだってある。辛かったら弱音を吐く。そんな一面を持っているのも、勇陽なんだ!」


「ふざけるな! 赤道勇陽は弱者ではない! 俺は間違ってなどいない!」


 こいつはそんな事認めない。

 でも、こっちには切り札がある。


「じゃあお前は、弱くなったあいつには興味が無いのか?」


「……何?」


 急にザトーの動きが止まった。

 よし、狙い通り。


「病気でやせ細って、歩くことも剣を持つこともできない。もしかしたら、もう戦えないかもしれない。そんなあいつを、お前は好きでいられるのか?」


「……そんなこと、あるはずがない」


 剣を持つ手がプルプルと震えていた。

 あともう一押し。


「本当だ。なんならあいつが入院している病院を教えようか?」


「……嘘をつくなぁぁぁぁぁ!!!!」


 ザトーは咆哮すると、剣を何度も打ち付けてきた。

 だがさっきまでの洗練さは無い。子供がだだをこねるかのような、乱暴な攻撃だ。


「赤道勇陽が、もう剣を持てないだと? そんなこと、あるはずがない!!」


「あいつは今必死に戦ってる!! 自分自身と!! だから、僕も負けるわけにはいかないんだ!!」


 あいつの手術、成功しただろうか。

 ……きっと大丈夫。そう信じている。

 それに、もし失敗したとしても。


「僕はお前を否定する!! あいつが戦えなくなったとしても、僕はあいつの側にいたい!!」


 強いとか弱いとか、関係ない。

 あいつの居場所は、いつだって僕の隣だ。

 たとえ強くても弱くても、あいつを一人にしたくなんてない。


「強くなくても、勇陽は勇陽だ。僕の一番の親友だ。僕はあいつが大好きだから、一緒にいたい。ただそれだけだ!!」


 ザトーは明らかに動揺している。今がチャンスだ。


「でやああああああああああああ!!!! 『サンセットブレイカー改』!!!」


「……ッ!! 『覇断』!!」


 またしても防がれる。

 だが、さっきよりも反応が悪くなっている。カウンタースキルを使うタイミングがワンテンポ遅かった。

 

「おいおい、集中できてないんじゃないか? 今の君のどこが強者だ? 僕ごときにやられそうになっているじゃないか」


「黙れ!! 現実剣道でも遊戯ブレイヴロワイヤルでも、貴様は 1対1で俺に勝てない!」


 その通りだろう。

 どれだけ開き直ろうが、動揺を誘おうが。

 現実ではまだ僕はこいつに勝てない。

 だけど。


「君は2つ勘違いしているな。1つ目は、これはゲームだ。現実でいくら強いからって、この世界で勝てるとは限らない」


 この世界は現実と表裏一体。

 反射神経も、戦況把握能力も、武器の扱い方も。

 この世界で習得したことは、もう一つの世界でも活かせる。


 でも、それだけで決まらないのがゲームなんだ。


「戯言を!!」


「そして2つ目は!」


 頭を狙って振り下ろしてきた一撃を、盾で弾……かない。

 盾を構えるふりをしていたが、地面を蹴って大きく後ろに避ける。

 刃が空を斬ったところへ。


「……『ルージュフルール』!!!」


 僕の影に隠れていたカナホが入れ替わるように前に出て、赤い連撃がザトーの体を貫く。


「ぬおおおおおおおおお!!!」


 チマチマとしか削れることができていなかったHPを一気に持っていく。


「このゲームは2人で1チームなんだよ」


 ゲーム開始から20分。

 ようやく、ザトーに膝をつかせてやった。

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