第40話 僕の戦い方

「向こうにかまけている暇はあるのか?」


 離れていても、同じチームの僕には、カナホの言葉がすべて筒抜けだ。

 色々と衝撃的な話が飛び込んできたが、それは後にするべきだ。

 目の前の敵に集中しないといけない。

 なんせ、相手はあのザトーなのだから。


「はあっ!!」


「っ!」


 ザトーの振り下ろした剣は恐ろしく重い、構えた盾で防ぐことができた。


 この戦いに挑む前に僕たちはステータスを再調整し、装備も変更した。

 今のステータスでは、以前よりも一撃の速さでは劣る。

 攻撃力とスピードしか考えていないような構成だった時より、敏捷性AGIを遥かに落としているからだ。


 だがその分、防御面ではかなり余裕がある。

 盾を装備したことで防ぐのも随分楽になったし、たとえザトーの攻撃力でも1発や2発食らった程度では倒れたりしない。


「付け焼き刃の盾を持ってくるとは、随分と臆病な戦い方だな! どうせ付け焼き刃なら、二刀流にでもすればよかったんじゃないか?」


「あいにく、僕は防御重視の戦いには自信があってね!!」


 幾度となく打ち付けられるザトーの攻撃を、何度も盾ではじき返す。

 最初は余裕そうな顔をしていたのだが、徐々に苛立ってきているのがわかる。


「チッ! 硬さだけは確かなようだな。だが、それでどうやって俺を倒すつもりだ?」


「……あの時と一緒だな」


「何?」


「君は昔から僕なんて目に入っていなかったからね。覚えていないだろうけど、僕たちは公式戦で試合をしたことがあるんだよ。去年の夏の大会で。あの時も、こんな風にずっと防御するしかできなかった」


 しばらく訝しげに考えていたようだったが、突然はっとしたような顔になった。


「思い出した……俺が公式戦で唯一、 1本を取れなかった男」


 あの時、お互いに1本を取ることができずに延長戦までもつれ込んだのだが、最後は結局判定負けになってしまった。

 こちらが防戦一方になっていたから、仕方ない。


「負けは負けだ。あの時、僕は君に勝てなかった」


 有効打を受けないように守るので精いっぱいで、攻撃に転じることができなかった。


「……あの試合。勝ちはしたが、俺の唯一の汚点だ。他の奴らにはすべて2本取って優勝したんだからな」


 彼からすれば、完全な勝利とは言えなかったのだろう。


「それで、その戦い方でどうやって俺に勝つつもりだ? お前は結局、あの時と同じだ! 縮こまって自分の身を守ることで精いっぱいの臆病者が!!」


「勝つさ! これが僕自身の、自分らしい戦い方なんだから!」


「ほざけ!!」


 ザトーの真正面からの一振り。

 今まではただ防いでただけだった。

 

 だが、今回は違う。盾を構えたまま相手に向かってぶつかっていく!


「何!?」


 剣が弾かれ、ザトーが体勢を崩した。今だ。


「はぁ!!! 『サンセットブレイカー改』!!」


「むっ!!」


 そのまま飛び上がり、右手の剣を振り下ろす。

 ザトーはとっさに地面を蹴って大きく後ろ向きに飛んだ。

 

 だが、わずかにかすった。剣道なら浅いとすら判断されないぐらいの一撃だろう。

 ほんの少し。体力ゲージの1割にも満たないぐらい小さいダメージが入った。


「……そうやって、チマチマとダメージを稼いでいって俺を倒すつもりか?」


「ああ、そうだよ」


 今まで盾なんてものを使ってきたことが無かったから一抹の不安はあった。

 だがここ数日大トロとトラサブローの手を借り、盾を使う練習をし、このスタイルが予想以上に自分に合っていることがわかったのだ。

 元々剣だけで受けていた攻撃を、盾で的確に弾く。そうすれば反対の手で攻撃ができるわけだ。


 だが、以前よりも攻撃面の性能は落ちている。一撃でザトーを倒すことなんて不可能。

 だから、ここは持久戦だ。相手の攻撃を防ぎながら隙を見つけて攻撃し、少しずつでもダメージを重ねていく。それが僕の勝ち筋だ。


「わかっているのか? 貴様が俺を倒すのに、一体何回攻撃をしのがないといけないと思っている? 貴様が少しでもその盾で防ぐのに失敗したら、その時点でダメージ負けするぞ?」


「ああ、わかっているさ!」


 カナホと大トロたちの協力のもと、今までのザトーの出しているダメージからおおよその攻撃力を割り出している。

 そこから綿密にダメージ計算をしてきた。

 今の僕のDEFなら、まともに食らえば2発と少しでダウンだ。


 だから、僕は全て防ぎきる。

 

「勇陽と違って派手でかっこよくない。地味でかっこ悪いけど……これが僕だ!!」


「……ハッ!!」


 ザトーが笑ったように見えた。

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