第37話 王座

 キャッスルステージは、ブレイブロワイヤルの舞台となる町の中心にそびえたつ、大きな城が舞台だ。

 広い城内には高い塔、地下、中庭など様々な場所が用意されていて、その全てがバトルフィールドとなっている。


 だが、プレイヤーからはクソステージと名高い、いわく付きのフィールドだ。

 曲がり角や狭い部屋が多く、見通しが悪くて遠距離武器や魔法が役に立ちにくいと言われるのがその理由だ。


 試合開始から10分ほど経過した頃。


「……お待たせてしまったかな?」


 その中でもっとも高い位置。お城の中心から長い階段を昇った先にある大きな広間。

 ここが王座の間。僕たちの最後の戦いの舞台だ。


 本来王と王妃が座るべき玉座に鎮座していたのは、ザトーとルーナの二人だった。


「ずいぶん遅い到着だったな」


「そう言わないでくれって。他のプレイヤーに見つからないよう、コソコソ隠れながらやってきたんだから」


 他のプレイヤーとの交戦は避けないといけなかったので、若干回り道になるのをわかっていながら、身を隠すのを優先してここまで来たのだ。


 だが、戦いが始まればこの王座の間は、部屋への入り口が1つしかないため。他のプレイヤーが入ってきたらすぐにわかる。

 正々堂々と2対2で戦うには最適な場所と言えるだろう。


「もう一度確認しておくわよ。私たちが勝ったら……本物の勇陽さんと再戦させてもらう。あなたが勝ったら、替え玉のことは運営に黙っておく。それでいいわね?」


 ちらっとカナホの方を向く。彼女も黙ってうなずいた。


「ああ。それでいいよ。でも」


 気になるのことがあったのでザトーの方を向き、真顔で尋ねた。


「……デート1回、しなくていいの?」


「いらん!!!」


 顔を赤くて吐き捨てるように言うと、剣を抜いて飛びかかってきた。


「貴様のような雑魚、一撃で終わらせてくれる!!」


───ガンッ!!


 金属同士のぶつかり合う音が響いた。


「……盾、だと?」


 防いだのは、僕が左に持った片手用の盾。軽さと硬さを両立した、鉄製のもの。

 ずっと背中に担いでいたので、正面のザトーには見えなかったのだ。


 武器もいつもの両手持ちのばかでかい剣ではなく、片手用の軽い剣。


「決勝で装備変更……いや、それだけではない?」


 ザトーは信じられない物を見たような顔をしていた。


「まさか、この短い期間でビルドを再構築した?」


「正解だよ」


 ファイナル直前、僕もカナホも大きくステータスと装備、スキルを変更した。

 ユウヒは攻撃と敏捷性偏重だったのを、防御を中心に物理面にバランス良く配分した。

 カナホはサポート性能を少し下げて単独でも戦えるように。


「愚かだな。ここにきて奇策に出るとは。俺たちを倒すためだけのビルド、というわけか?」


「いいや、違う」


 かつて、大トロ&トラサブローと戦った時に彼らが取ってきた作戦。

 それと同じことをすれば、確かに勝てるかもしれない。


 でも、それでは意味がないのだ。

 僕が僕らしく戦って勝つこと。

 それが、僕たちの勝利条件なのだから。


「僕は勇陽とは違う。あいつとは違うやり方で、お前を倒す!!」


 ザトーの表情はうかがえない。

 だが、なぜか笑っているように見えた。


「ふん。覚醒したか、それともただ開き直っただけか。お前はどちらだろうなっ!!」


「決まってる!! 後者だよっ!!」


 またしても剣を大きく振り上げてきたが、今度はこちらも剣で受け止める。

 攻撃力を大きく落としてはいるが、その分防御力を上げている。

 おかげで、鍔迫り合いになっても力負けはしていない。


 心配そうに後ろで見守っていたカナホに声をかける。


「カナホ。いけそうだ。作戦通りに頼む」


「わかっています」


 カナホが、傍観していたルーナの前に立ちふさがる。


「ルーナさん。あなたの相手は私です」


「あなた、サポート専門だったんじゃないの? 私とタイマンで勝てるとでも?」


「ええ。この前の練習試合の借りを返さないといけませんから」


 彼女はその事実を聞いて、少し驚いた顔になった。


「……そう、あれはあなただったのね。ごめんなさい。名前は忘れてしまったけど」


「覚えていただかなくて結構です。名前も知らない相手に倒されるなんて、あなたも初めての経験だと思いますから」


 カナホのレアな強気な言葉に、ルーナはバカにしたように笑った。


「いい度胸ね。この前戦った時、あなたには何百回やっても負ける気なんてしなかったわよ」


「勘違いは誰にでもあることです。それに……」


 刹那。カナホが動いた。


「ぐはっ!!」


 空気が斬り裂かれたような音がし、ルーナが吹き飛ばされる。


「私はこれでも、心野君の弟子で、勇陽さんの友人ですよ?」


 彼女の手には、いつもの杖ではなく、細剣レイピアが握られていた。

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