第36話 最後の戦い

「ついにこの時がやってきました!! 『ブレイヴチャンピオンシップス』! ファイナルラウンドォォォォォ!!!」


『うおおおおおおおおおお!!!』


『キターーーーーー!!』


「さっそく最終ラウンドに残った8チーム16人の選手を紹介しましょう! まずはAブロック代表の……」


 予選期間を含めると、とても長い時間をかけてきた大会だ。

 残っているのは、このゲームに命をかけているようなメンバーばかり。

 それもあってか、配信のコメント欄は大盛り上がりだ。


「Cブロック代表!! ザトー&ルーナ!! ユウヒ&カナホ!!」


『瞬殺!! 瞬殺!!」


『ルーナたんかわいいよルーナたん』


『ユウヒ絶対勝てよ!!』


『やってやれだし!!』


 そんな中で僕たちの名前が呼ばれるのはなんだか居心地が悪い気がする。

 だが、今はそんな事言ってる場合じゃない。


 僕たちがいるのは『選手控室』という名の特別エリア。見た目はホテルの中みたいだ。

 今は代表選手だけが集められていて、チームごとに個室が用意されている。


 選手紹介を聞き流しながら自分の部屋から出ると、隣の部屋をノックした。

 扉を開けるとそこにいたのは、ザトーとルーナの2人。


「やあ」


「ユウヒさん……?」


「違う……偽物の方だな」


 ルーナは戸惑いながら問いかけてきたのだが、ザトーはすぐさま否定した。

 その鋭さに、割と本気で感心する。


「さすが、勇陽の大ファン。よく気付いたね」


 ザトーはフン、と鼻を鳴らす。


「なぜあいつは来ない? わかっているはずだ。貴様では、あいつの代わりは務まらないとな」


「友ちゃん。どんな理由か知らないけど、勇陽さんじゃなくてあなたがこの戦いに来た以上、運営に報告せざるを得ないわ。あなたは本来、この大会に出ることはできないのだから」


「そうだね。君の言う通りだ。……でも、ちょっと待って欲しい。僕たちはこの大会で勝ち残るつもりはない」


「何ですって?」


「僕たちが望むのは、君たちとの決着だ。僕たちが戦うのは君たち二人だけ。他の参加者には絶対に攻撃しない。決着がついたらそのままリタイアすることを約束する」


 まともに戦っている参加者たちにも、それを楽しみにしている観客たちにもとても申し訳ないと思っている。

 棄権することも考えた。だがこんな場でもないと、この2人は僕との戦いなんて受けてくれないだろう。

 だからこれは僕たちなりのケジメだ。


 それを聞き、ザトーはバカバカしい、と言わんばかりに首を振った。


「決着はすでについたはずだ。お前との闘いなど、まったく興味ない」


「友ちゃん。私たちは勇陽さんと決着を付けたいの。あなたと戦うことになんて、まったく意味はない」


「本当にそうかい? 夜月さんの方はこの前の練習試合の決着がまだついてないよね? このままだと1本取ってる僕の勝ちだ。僕に勝てないようじゃ、勇陽には永遠に届かないだろうね。永遠のNo.2さん」


「なっ……!!」


 彼女は最大限の侮辱であろう言葉を浴びせられ、怒りに肩を震わせていた。


「そして、刀斬。君には悪いんだけど……実は僕と勇陽は付き合っていてね」


「……なんだと?」


 よし、反応した。


「ああ見えて勇陽は僕にベタ惚れでね。君みたいな勘違い野郎は正直迷惑なんだってさ。それに、君ごときなら僕で十分だろうってさ」


 勇陽の言っていたことを超絶誇張した、嘘八百を並べたてた。

 相手は顔を伏せていて表情が伺えない。プルプルと震えているようにも見える。


「まぁでも? 僕に勝てたならデート1回ぐらい、許してやってもいいよ?」


───ブチィ!!


 何かが破裂したような、ブチギレたような音が聞こえた気がした。


「……いいだろう。貴様がそこまで死にたいのなら、俺が介錯してやる!」


「ちょ、ちょっと、ザトー! こんな大事な試合でそんなこと!」


「元々大会に出たのは赤道勇陽と戦うためだ。ヤツが出ないなら、この戦いに意味などない。だったら、このゴミのような男を真っ先に始末するのもいいだろう」


「……まぁいいわ。目障りなあなた達を真っ先に消せるのなら、それでもいい。言っておくけど、私たちはあなた達に勝って、そのまま大会でも勝ち残るつもりだから」


 あくまで、勇陽じゃない僕たちユウヒとカナホなんて、路傍の石ぐらいにしか思っていなそうだ。

 だが、それでもいい。


 その時、ちょうど司会がくじを引き、ステージが決定された。


『最終ステージは……キャッスル!! ブレイヴロワイヤルの王を決める戦いに相応しいステージですね!!』


「ちょうどいい。キャッスルステージなら、王座の間で戦おう。あそこなら邪魔も入りにくい。言っておくけど、逃げないでくれよ。シルバーコレクターと横恋慕男」


 そう言い残し、控室を出る。

 部屋の中から、ドンッ!!と大きな音が2回鳴った。

 きっと、壁でも殴ったんだろう。

 やれやれ、と肩をすくめながらそのまま自分の控室に戻る。


「いや、超怖かったんだけど。現実ならたぶん斬り殺されてたよ……」


 いまだに足がガクガクプルプルしている僕を、カナホが労う。


「えっと、お疲れ様です……離れていても、彼らの怒りが伝わってくるような気がします」


「安い挑発だけど、勇陽は彼らにとって一番の弱点だな。それがよーくわかった」


 勇陽ならこんな精神攻撃、絶対使わない。

 だが、もう勇陽らしくする必要はない。

 僕は僕にしかできない戦い方をする。それだけだ。


「幻滅したでしょ。ヒーローだと思ってたのがこんなんでさ」


「いいえ。心野君らしいくていいと思います。……どうしましたか?」


 じっと見つめていたのがばれてしまったようだ。

 不思議そうな顔で見つめ返される。


「いや、カナホの顔と声で、委員長が喋っていると思うと、なんか不思議な感じだなってだけ」


 彼女は恥ずかしそうに笑っていた。


「もう、からかわないでください。……ちなみに心野君は、どっちが好みですか?」


「コメントは差し控えさせていただく」


「ずるい人ですね」


「ああ。僕は勇陽じゃないからね。真正面から行くだけが戦いじゃない。……賢くズルく、行かせてもらうさ」


 そのタイミングで、目の前に大会参加用のウィンドウが表示された。

 『準備完了』とだけ書かれたボタンがあり、カナホと顔を見合わせ、そのまま2人ともボタンを押す。


「オーケイ! 全員準備完了したみたいだな!? それじゃあおっぱじめるぜぇ!! ブレイヴチャンピオンシップスファイナルバトル! 泣いても笑っても、この試合がラストだ!! 最高の栄誉を手に入れるのはどのチームか? レディー……ファイトォォォ!!!」


 全身が光る包まれ、バトルステージへと転送される。

 いよいよ、最後の戦いが始まるのだ。

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